「この先生がいい!」の正体を発見――鳥の脳を操作した実験結果

はたして鳥たちが「この先生がいい!」と感じる心にも、人間と同じように脳の扁桃体が関わっているのでしょうか。
この謎を解明するため、研究者たちはまず若いキンカチョウの幼鳥に、歌声が異なる2羽の大人の鳥(成鳥)を順番に紹介して、それぞれの歌をじっくり聞かせることにしました。
その後、幼鳥たちはしばらく自由に歌の練習をして、歌を覚え終わった頃に研究者が録音し、その歌を分析しました。
すると幼鳥たちは、2羽の先生の歌をミックスするのではなく、どちらか一羽の歌を集中的に真似していたのです。
どちらの先生が選ばれるかは幼鳥ごとに違っていましたが、不思議なことに「人気のある先生」には共通する特徴がありました。
それは、「1回あたりに長く歌い、歌う回数が少ない先生」です。
短時間にぎゅっと集中して魅力的な歌を聴かせる先生ほど、幼鳥に好かれやすいという結果だったのです。
では、この先生選びに扁桃体は関わっているのでしょうか。
その疑問を調べるため、研究者たちは幼鳥の扁桃体に興奮毒性病変(エキサイトトキシック・レジョン)という特別な処理を施して、扁桃体の働きを一時的に弱めました。
そして再び同じように2羽の先生の歌を聞かせて、幼鳥がどちらを選ぶかを観察しました。
すると、驚くべきことが起こりました。

扁桃体を損傷した幼鳥は、正常な幼鳥とは違い、「短期集中型の先生」を選ぶ傾向が明らかに薄れてしまったのです。
本来なら「この先生に習いたい!」というはっきりした選択ができるのに、扁桃体がうまく働かない幼鳥たちは、「誰を模倣すればいいのか、よく分からない状態」になりました。
またこの違いは、幼鳥の行動にもはっきり現れました。
正常な幼鳥は「習いたい」と感じる先生の歌が聞こえると、その先生に積極的に近づいて行きますが、扁桃体が損傷した幼鳥はそうした反応がほとんど見られなくなりました。
その代わり、「この先生も気になる、あの先生も気になる」といった感じで、ケージ越しに落ち着きなく何度も行ったり来たりするような行動が目立ったのです。
つまり扁桃体が働かなくなると、先生を選ぶための「ときめき」がなくなり、目の前の先生をはっきり選べなくなってしまうのです。
しかし不思議なことに、扁桃体が損傷しても「歌そのものを真似する能力」には何の問題もありませんでした。
つまり扁桃体は歌の技術を学ぶ力には関係なく、「誰の歌を学ぶのか」を決めるためだけに特別に働いていることが分かったのです。