月を回った「甲羅の宇宙飛行士」たち
ゾンド5号の飛行はおおむね順調に進みました。
4日間かけて月を周回し、宇宙を飛ぶ初の“地球生物”としての偉業を達成します。
その後ゾンド5号は地球へ向けて帰還を開始しましたが、誘導プログラムの不具合により予定していたカザフスタンではなく、インド洋へと着水してしまいます。
そこへ偶然近くを航行していたアメリカの艦船が着水を目撃し、回収前にゾンド5号の写真撮影に成功。
その結果はアメリカを大きく安心させました。
というのも、ソ連の宇宙船技術がアメリカ側の現状に比べて、かなり劣っていたことがわかったからです。

一方で、月周回に成功したカメたちは9月21日に無事回収されました。
出発前に比べて体重がわずかに減っていたものの、健康状態は良好。
過酷な宇宙飛行を生き延びた彼らの姿は、まさに“甲羅を背負った宇宙飛行士”そのものでした。
この偉業は、世界中で一部報道されたものの、NASAの技術者たちは冷ややかな目で見ていたといいます。
「これは単なる“最後の一手”に過ぎない」として脅威とは捉えず、反対に「主導権は我々にある」ことを確信しました。
実際、ゾンド5号の宇宙船は人間の生命を支えるには不十分であり、アポロ計画を急がせる理由にはなりませんでした。
その約3カ月後、アメリカは3人のクルーを乗せたアポロ8号を打ち上げ、人類初となる月周回を成功させます。
さらに1969年7月には、アポロ11号が史上初となる人類の月面着陸に成功させ、宇宙開発レースはアメリカ側の勝利で幕を閉じたと言えるでしょう。
しかしその歴史の影では、カメの宇宙飛行士たちが人間よりも先に月を周回していた知られざる功績があるのです。
亀たちには地球や月はどう見えたのでしょう。
お腹減っててそれどころではなかったのかな。