「神経化粧品」は皮膚から脳を逆刺激し本当の「美」の達成を目指す
「神経化粧品」は皮膚から脳を逆刺激し本当の「美」の達成を目指す / Credit:clip studio . 川勝康弘
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「神経化粧品」は皮膚から脳を逆刺激し本当の「美」の達成を目指す (2/4)

2025.07.01 18:00:41 Tuesday

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皮膚は第2の脳だった——「神経化粧品」が変える美容の常識

皮膚は第2の脳だった——「神経化粧品」が変える美容の常識
皮膚は第2の脳だった——「神経化粧品」が変える美容の常識 / 神経化粧品製剤によく使用される有効成分とその作用機序/Credit:Beyond beauty: Neurocosmetics, the skin-brain axis, and the future of emotionally intelligent skincare

「肌は心の鏡」という言葉がありますが、実際には肌は心と深くつながった『会話相手』のような存在です。

私たちが緊張したりストレスを感じると、肌が荒れたり赤くなったりするのは、肌がと密接に情報交換をしているためです。

実際、皮膚と脳は生体内でも神経やホルモンを介してお互い影響し合っており、「皮膚‐脳軸」と呼ばれる密接なコミュニケーション経路があることが知られています。

脳と腸の関連性の強さを「脳‐腸軸」という言葉で表すことがありますが、脳と皮膚の間にもそれに類する言葉があるわけです。

脳が緊張するとお腹が痛くなるように、脳の緊張は肌に対して肌荒れを起こしたり、逆に心地よい刺激で肌が生き生きしたりするのは、この皮膚‐脳の双方向通信によるものと言えるでしょう。

生物学的に見ると、皮膚には神経線維の末端が無数に存在し、表皮や色素細胞、免疫細胞も含めて皮膚そのものが小さな「神経内分泌系」のように機能しています。

腸が第2の脳と呼ばれるのならば、皮膚も第2の脳と呼ぶにふさわしい要素をもっているわけです。

さらに驚くべきことに、肌自身が脳と同じような物質、例えば「幸せホルモン」として知られるβエンドルフィンや、気分を明るくするドーパミン、安心感をもたらすセロトニンなどを作り出し、これらの物質を使って脳とコミュニケーションを取っているのです。

つまり、肌で作られた「気分を良くする物質」が神経を介して脳に信号を送り、逆に脳のストレスホルモンが皮膚に影響する、といったフィードバックループが存在するのです。

神経化粧品はこの仕組みを利用します。

例えば、最近話題になっている成分「アセチルヘキサペプチド-8」という特殊なペプチドは、肌に塗ることで筋肉の緊張を緩め、シワを和らげますが、実はそれだけではありません。

このペプチドは神経伝達物質アセチルコリンの働きを抑えることで、肌の緊張感が軽くなると同時に、気持ちの緊張までほぐれてストレスが軽減する可能性があると報告されています。

同様に、エンドルフィン(脳内快楽物質)の放出を促す成分を塗れば肌のストレス反応が和らぐ可能性があります。

他にも大麻などに含まれるカンナビノイド成分は皮膚に存在するカンナビノイド受容体(CB1/CB2)に作用し、かゆみや痛み、炎症を抑えるとともに気分の不快感を和らげる効果が期待されています。

さらに『ストレスに適応する』働きを持つ植物成分(アダプトゲン)も神経化粧品に応用されています。

例えば、インド古来のハーブ「アシュワガンダ」は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑え、肌の老化を防ぐ働きが報告されています。

さらにシベリア由来のハーブ「ロディオラ(イワベンケイ)」は、肌のエンドルフィンを増やし、心の状態を整える可能性があります。

また古くから知られているラベンダーやカモミールなどの精油を皮膚に塗ることで、香りと触覚の両面からリラックス効果が得られ、不安やストレスを和らげるアロマセラピー的な効果が期待されています。

このように、本研究で提唱された神経化粧品(ニューロコスメティクス)では従来の美容に捕らわれていた概念を超えて、神経伝達物質・ホルモンから触覚・嗅覚刺激に至るまで多彩なメカニズムで皮膚‐脳軸に働きかけ、肌の状態と心理状態の双方に良い変化をもたらすことを目指しているのです。

単に肌に塗って肌を綺麗に見せるのではなく、肌に塗ることで脳と皮膚の関係改善を促進し、心を通して肌を綺麗にすることができたなら、それは単なる化粧を超えた存在になるでしょう。

神経化粧品の概念は成分だけにとどまらず、肌状態の根本に働きかけることを目指しています。

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