「神経化粧品」は皮膚から脳を逆刺激し本当の「美」の達成を目指す
「神経化粧品」は皮膚から脳を逆刺激し本当の「美」の達成を目指す / Credit:clip studio . 川勝康弘
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「神経化粧品」は皮膚から脳を逆刺激し本当の「美」の達成を目指す

2025.07.01 18:00:41 Tuesday

フランスのナント大学(UN)や日本の京都大学(京大)をはじめとする国際研究チームによって、皮膚の神経から脳を逆刺激することで「美」を実現する『神経化粧品(ニューロコスメティクス)』という概念が学術的に提唱されました。

この新しいタイプの化粧品は、皮膚を第2の脳のようにとらえ、皮膚と脳の双方向のコミュニケーション(皮膚−脳軸)を活用し、「肌」に塗ることで「心」を調整して「お肌」の調子を上向かせることを目指します。

つまり、従来のように皮膚を外側からケアするだけでなく、内面的な感情や精神状態の向上をも目指しているのです。

心の調子によってお肌の状態が違う「心➔お肌」という影響の流れを逆手に取り「化粧品➔肌➔心➔肌」と改善ループを回すわけです。

肌も心もキレイにする「ニューロコスメティクス」や「ニューロコスメ」という言葉自体は以前からみられていましたが、本研究では単なる美容マーケティングの枠を超え、具体的な神経生物学的メカニズムや免疫・ホルモンの関係性、さらにはAI技術や皮膚微生物(マイクロバイオーム)の役割まで踏み込んだ詳細な科学的アプローチを示しています。

もし、毎日のスキンケアが肌だけではなく心にも癒しをもたらすとしたら、私たちの美容習慣はどのように変わっていくのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年6月2日に『Clinics in Dermatology』にて発表されました。

Beyond beauty: Neurocosmetics, the skin-brain axis, and the future of emotionally intelligent skincare https://doi.org/10.1016/j.clindermatol.2025.05.002

「神経化粧品」とは何か?

「神経化粧品」とは何か?
「神経化粧品」とは何か? / Credit:clip studio . 川勝康弘

肌荒れがひどい日は、なぜか気分まで落ち込んでしまう――そんな経験はありませんか?

肌の調子と心の状態がつながっているという感覚は、多くの人が感じていることでしょう。

神経化粧品は、そんな皮膚と心の密接なつながりに科学的にアプローチする新しいタイプの化粧品です。

その核心は「皮膚の神経感覚システムに作用し、生体の心理・生理反応に影響を与えることで、皮膚の機能と情緒的な幸福感を高める」ことにあります。

簡単にいえば、肌に塗ることで神経を介して気分を前向きにしたりストレス反応を和らげたりして、肌と心のバランスを整えることを目指す積極的なアプローチの製品です。

従来、心理的ストレスが肌荒れを招くことはよく知られ(いわゆる精神皮膚医学の分野)、ストレス緩和による肌治療も行われてきました。

神経化粧品はこれに対して逆転の発想をしており、肌側から神経系に働きかけて、心の状態やストレス反応そのものをコントロールし、良好な精神状態によって皮膚の調子も改善させようというのです。

この概念はまさに皮膚科学(皮膚科領域)と神経科学や心理学の交差点に位置しています。

研究者らは神経化粧品を、神経生物学や心理生理学(affective science)と皮膚科学・感覚刺激の知見を統合した学際的な領域と捉えています。

肌に塗るという日常的な行為が、実は内の化学物質や自律神経の働きにも影響を及ぼしうる――そんな可能性が科学的に探究され始めているのです。

では具体的に、肌と脳はどのように通信し合っているのでしょうか。

そのメカニズムを見てみましょう。

次ページ皮膚は第2の脳だった——「神経化粧品」が変える美容の常識

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