神経美容でのAIと微生物の活用

毎日同じスキンケアを続けているのに、ある日は肌が落ち着いている一方で、別の日は突然調子が悪くなる――そんな経験をしたことはないでしょうか。
この違いのカギは、実は肌の奥で起きている「心の状態」にあると指摘されています。
最新の神経美容では、こうした日々の心と肌の微妙な変化をAI(人工知能)の力で捉え、リアルタイムであなたの肌と心の状態に最適なケアを提供する取り組みが進められています。
近年、カメラ映像や生体センサーのデータを解析することで、人の感情状態や自律神経の変化を客観的に捉えるAIが登場しつつあります。
例えば顔の表情筋のごくわずかな動きや肌色の変化、体表の温度分布などをモニタリングし、その人がストレスを感じているかリラックスしているかをAIが推定するのです。
学際的な意味での神経化粧品では、こうした技術とスキンケアが結びつきつつあります。
スマートフォンのアプリや自宅のスマートミラーがあなたの表情や睡眠・脈拍などを分析し、その時々の心身の状態に合わせて「今日はこの美容液でお肌も気分も落ち着かせましょう」といったリアルタイムのケア提案をしてくれる未来が目前に迫っています。
特にアトピー性皮膚炎や慢性的な湿疹など、ストレスで症状が悪化することが知られている皮膚疾患を抱える人には、この技術はとても頼もしいものになるでしょう。
AIが症状の悪化を予測し、事前に神経化粧品を使った予防的なスキンケアを提案できるようになれば、症状を最小限に抑えることが期待されます。
スキンケアが「静的」な日課から、AIと連動した動的で個別化されたメンタル連動型の美容へと進化していく可能性があるのです。
また、神経美容をさらに進化させるうえで大きな注目を浴びているのが、「肌にすむ微生物」(皮膚マイクロバイオーム)の存在です。
肌の表面には数多くの細菌や真菌が共生しており、これらがバランスを保つことで肌は健やかさを維持しています。
しかしストレスや睡眠不足、食生活の乱れなどが続くと、肌の微生物バランスが崩れ、肌荒れや炎症、さらには心の不調にまで影響することが分かってきました。
特に注目されている研究成果の一つが、「キューティバクテリウム属」という皮膚常在菌の存在量とストレスや気分との関係です。
2025年に発表された研究によると、キューティバクテリウム属の菌が肌に多い人ほど、ストレスを感じる度合いが低く、気分が安定している傾向が確認されました。
この結果は、「皮膚に住む微生物が脳や心の状態にまで影響を及ぼしている可能性」を初めて科学的に示した重要なものです。
この結果は、腸内細菌が「腸‐脳軸」を通じて人間のメンタルに影響するのと同様に、皮膚の微生物も「皮膚‐脳軸」を介して精神的な幸福に寄与しうることを示唆しています。
もっとも、皮膚の微生物叢と感情との因果関係はまだ初期的な知見で、今後の研究に委ねられています。
しかし美容業界では早くもこの発見に注目が集まっています。
最近の動向を見る限り、消費者は美容とメンタルヘルスを分けて考えるのではなく、外見と精神の両方をサポートする製品を求めている傾向にあります。
現在ではこうした研究を踏まえて、「肌の善玉菌」を増やすプロバイオティクスや、それらが作り出すポストバイオティクスを配合したスキンケア製品が開発されています。
これにより、肌の微生物バランスを整え、ストレスによる炎症を防ぎ、肌だけでなく心の状態まで安定させるホリスティック(包括的)な美容ケアが期待されています。
実際、ある研究では乳酸菌が産生するポストバイオティクスを塗布することで肌の敏感さが軽減し、ストレスによる炎症反応が抑えられる可能性が示されています。
今後「皮膚‐脳‐マイクロバイオーム‐AI」を組み合わせた新たな美容アプローチが進展しそうです。
もしかしたら未来の人は今のスキンケアを見たら「神経化粧品もAIアシストも皮膚細菌の管理もなしに中世と同じ、塗るだけだった」と感じるかもしれません。