誰もいないのに「誰かいる」と感じる現象を科学的に解明
誰もいないのに「誰かいる」と感じる現象を科学的に解明 / Credit:clip studio . 川勝康弘
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誰もいないのに「誰かいる」と感じる現象を科学的に解明 (2/3)

2025.07.02 21:00:00 Wednesday

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実験で実証!暗闇と孤独が脳を「幽霊モード」にする

実験で実証!暗闇と孤独が脳を「幽霊モード」にする
実験で実証!暗闇と孤独が脳を「幽霊モード」にする / Credit:clip studio . 川勝康弘

では本当に、暗闇や孤独はに「誰かがいる」と信じ込ませてしまうのでしょうか?

この謎を解明するために、研究者たちはまず実験室を真っ暗にして、視覚や聴覚から得られる情報をできるだけ取り除くという環境を作り出しました。

実験の参加者は126名のチェコの大学生で、彼らは一人ずつ30分間、この真っ暗な実験室の中で過ごしました。

その際、全員がアイマスクと耳栓をつけ、視覚と聴覚をほぼ完全に遮られた状態になりました。

さらに研究者たちは、参加者の半数にだけ「もしかすると、実験中に誰かが誤って部屋に入ってくる可能性があります」と伝え、もう半数には何も伝えませんでした。

このように、参加者に「誰かがいるかも」という思い込みを与えることで、社会的な予測がどのように影響するかを調べたのです。

実験が終わった後、研究者たちは参加者にアンケートやインタビューを行い、実験中に「不安や不確かさを感じた瞬間」や「奇妙な感覚」、および「誰かが近くにいるように感じた」かどうかなどを報告しました。

また実験中、皮膚の発汗変化を測定する装置により皮膚電気反応(発汗に伴う電気伝導度の変化)を記録し、生理的な覚醒度=緊張やストレスの高まりをモニタリングしました。

結果、最もはっきりとした傾向として浮かび上がったのは「内的な不確かさ」と「存在感覚」の関係でした。

自己申告による不安感が強かった人や、生理指標(皮膚電気反応)から見て覚醒度が高かった人ほど、「誰かが近くにいるように感じた」と報告する傾向が顕著だったのです。

特に、視覚・聴覚が遮断されている状況では、わずかな身体感覚の変化や曖昧な感情の動きを「何者かが傍にいる証拠だ」と脳が解釈してしまいやすく、視覚や聴覚に頼れないぶん触覚や漠然とした「気配」によって他者の存在を感じ取ったというケースが多く報告されました。

つまり、暗闇と静寂によって周囲の情報が得られないと、人は自分の体の内側から生じる違和感やかすかな感覚さえも「外部に誰かがいるサインだ」と受け取ってしまうようなのです。

一方、実験前に与えた「誰か入ってくるかも」という刷り込み(社会的予期)については、意外にも全体的な効果は限定的でした。

この暗示を与えられたグループのほうが「あからさまに幽霊の気配を感じやすくなった」ということはなく、報告された「存在感覚」の頻度や強度に有意な差は見られなかったのです。

ただし細かく分析すると、刷り込みによって「誰か来るかもしれない」と頭に植え付けられていた参加者は、特に身体が緊張状態(生理的覚醒度が高い状態)にあった場合に限り、「何者かに触れられたように感じる」という報告がやや増える傾向がありました。

これは文化的・社会的な思い込みが「気配の内容」(例えば身体に触れてくる幽霊なのか、ただ見ているだけなのか)に影響を与える可能性を示唆しますが、肝心の「気配そのものを感じる」という現象は、不確かさ(不安)の度合いが最も重要な要素でしたが、社会的予期(思い込み)も触覚的な気配を強める効果を一部の参加者に与えていました。

さらに研究チームは、参加者のパーソナリティ(性格特性)がこの現象に影響するかも調べました。

その結果、2つの特性が注目されました。

最も興味深かったのは、空想傾向が高い人は逆に「幽霊の気配」を感じにくいという相反する結果も得られました。

特に「視覚的な気配」(何か姿のようなものを感じる)は顕著に少なく、触覚的な気配すら弱まる傾向があったのです。

ネナダロヴァ氏は「予想に反して、空想好きな人は一人で何もない状況に置かれると空想の世界に没頭してしまい、不安を感じるヒマがなくなるために幽霊の存在感覚を抱きにくいのかもしれない」と分析しています。

空想は幽霊を殺すのかもしれません。

一方で「想像や暗示にどれだけ影響を受けやすいか」という素質が高い人ほど、実験中に「誰かいる気配」を感じたと報告する率が高く、特に先述の「不確かさ」が大きい状況ではその傾向が顕著でした。

次ページ幽霊の気配は「進化が生んだ錯覚」だった

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