セックスの頻度は健康と深い繋がりがある
セックスと脳の健康がつながっている――。そう聞くと、ちょっと驚くかもしれません。
けれども実は、これまでにも性生活がメンタルヘルスに影響を与えることは、いくつかの研究で示されてきました。
たとえば、セックスの頻度が多い人は、気分が安定しやすく、パートナーとの関係性も良好である傾向があるとされています。また、性的なふれあいが、ストレスの軽減や睡眠の質の向上につながることも指摘されています。
もちろんこうした報告はあくまで相関関係を示したものなので、パートナーとの関係が良好だからセックスの頻度が増える、だから気分も安定していてストレスも少ない、という可能性も十分ありえます。
いずれにせよ性生活と、人の精神的な部分に関連があるということは、人の精神的な部分を司る脳機能と性生活も関連する可能性があります。
ところが、脳の働きと性生活がどれほど深く関係しているのかについては、これまであまり報告がありません。
日常的な活動と関わりが深い脳の働きの1つが認知機能です。認知機能とは、考える、覚える、判断するといった私たちが日々の生活で自然に行っている脳の働きのことで「記憶力」や「集中力」などに関わっています。

もし性生活がこうした認知機能と繋がっているとしたら、年齢の進行によって起こる認知機能の低下スピードがセックスの頻度と関連している可能性も考えられます。
そこで今回の研究を行った、中国・青島大学(Qingdao University)のテン・チー・テン(Tian‑Qi Teng)氏らの研究チームは、「性生活の頻度が認知機能の変化にどのような影響を与えるのか」という点に着目して調査を行いました。
研究チームが使用したのは、アメリカで長年にわたり行われている「MIDUS(Midlife in the United States)」と呼ばれる大規模な縦断的調査データです。このデータには、アメリカの中年層の健康、心理、社会的背景に関する詳細な情報が含まれており、世界中の研究者が活用できる貴重なリソースとなっています。
今回の研究では、このMIDUSのデータの中から、45歳から69歳の男女の情報を抽出し、約10年間にわたる認知機能の変化を分析しました。
MIDUSの調査では、参加者に「過去6か月間で平均してどのくらいセックスをしたか」という質問が含まれており、今回の研究ではその回答をもとに参加者の性生活の頻度(「月に1回未満」と「月に1回以上」という大まかな区分けで分析)を調べ、それが参加者の10年間の認知機能の変化とどう関連するか分析しています。
認知機能の評価には、記憶力、注意力、言語の流暢さなどを測るテストが用いられました。さらに、年齢や性別、教育レベル、所得、既往症(病歴)、うつ症状の有無、BMI(Body Mass Index:体格指数)といった脳機能に影響を与える可能性のある他の要因についてもデータを補正し、できるだけ「性生活の頻度」そのものの影響を抽出するよう工夫されています。
この研究の特徴は、単なる一時点のデータではなく、10年という長期的な変化に焦点を当てている点にあります。そして、対象者の生活背景が非常に多様であるため、現実の社会をある程度反映した結果といえるのも大きなポイントです。
では、このように丁寧に調査されたデータから、どんな結果が得られたのでしょうか?