「保存則」の先にある可能性
この研究の成果は、単なる理論の証明にとどまりません。
実験の途中で、研究チームは新しく生まれた二つの光子が「量子もつれ(エンタングルメント)」と呼ばれる不思議なつながりを持つ「兆候」を確認しました。
量子もつれとは、二つ以上の粒子が離れていても互いに影響を与え合う特殊な関係のことで、この研究では空間や時間、さらに偏光(光の揺れの向き)など複数の性質が絡み合った複雑な状態が生まれた可能性があります。
こうした量子もつれは、量子コンピューター(量子力学を利用した新型コンピューター)の計算能力を大幅に高めたり、量子通信(量子力学を応用した安全で高速な通信)で一度に送れる情報量を増やしたりする鍵になると考えられています。
そのため、この実験は将来の量子技術に向けた大きな一歩と言えるでしょう。
研究チームは今後、光子が生まれる現象の効率をさらに高めるとともに、生成された量子状態を簡単に調べる技術の開発にも取り組む計画です。
これらの技術が実用化されれば、現在は「干し草の山から針を探す」ほど稀な光子の検出が、より容易になると期待されます。
将来的には、複数の光子が絡み合った高度な量子状態を使った新しい実験や、それらを量子通信ネットワークに応用することも視野に入れています。
もうひとつ重要なのは、「自然界に対称性(バランスや規則性)があれば、対応する保存則が必ず成り立つ」という物理の基本原理を、光子一つという極小スケールで実証した点です。
つまり、この実験は波の性質を表す数式だけでなく、実測によって保存則が単一光子レベルでも崩れないことを裏付けました。
普段は当たり前に思える物理法則が、極限条件でも破れないと示した意義は大きいと言えます。
「たった一個の光子でも、守るべき物理のルールはきちんと守られる」という結果は、量子科学や量子技術の新しい可能性を広げ、未来の量子コンピューターや量子通信を支える重要な基盤として今後ますます注目されるでしょう。