“ノエル”は有利で“テリー”は不利、名前の響きが生む印象のバイアス
実験の結果、名前の“音の響き”が採用選考に大きな影響を与えることがわかりました。
とくに「誠実さ」「協調性」「情緒性」「開放性」が求められる職種では、l(エル)、m(エム)、n(エヌ)といった柔らかい響きを持つ名前、たとえば「ノエル(Noel)」や「ルナ(Luna)」のほうが“この仕事に合いそう”と評価され、選ばれることが多くなったという。
研究では「名前のみ」「名前+写真」「名前+ビデオ面接」といった、選考の段階ごとの影響も調べられましたが、名前だけが判断材料となる履歴書や一次選考では、特に名前の響きが評価に強く影響していたのです。
一方、顔写真や動画でのやり取りが加わると、名前の効果は徐々に薄れ、応募者本人の表情や声といった要素がより重視されるようになっていました。
つまり、「名前の音によるバイアス」は、書類審査やオンラインでの初期選考のような“限られた情報しかない場面”でより強く働くことが示されました。
この現象は、音の響きが人の性格や雰囲気のイメージに結びつき、私たちが無意識的に感じる印象に影響していることを裏付けています。
実際には、名前の響きと本人の性格には直接的な関係はないはずですが、無意識のうちに“柔らかい名前は誠実そう”“鋭い名前は強そう”といった印象が生まれてしまうのです。
論文では、研究結果から採用で有利・不利になる名前は次のようなものだと述べられています。
採用に有利な名前
(sonorant) |
カタカナ読み | 採用に不利な名前
(voiceless stop) |
カタカナ読み |
---|---|---|---|
Noel | ノエル | Chris | クリス |
Luna | ルナ | Kurt | カート |
Lauren | ローレン | Kate | ケイト |
Allen | アレン | Greta | グレタ |
Mona | モナ | Katie | ケイティ |
Miles | マイルズ | Terry | テリー |
ここでは「誠実さ」「協調性」といった面を考慮した場合、ノエルやローレンといった名前は採用に有利になり、グレタやテリーといった名前は採用で不利になる傾向があると述べられています。

ただし、p(ピー)、t(ティー)、k(ケイ)など無声破裂音(空気を一度止めて破裂するように出す音)を含む鋭い響きの名前が常に不利というわけではなく、「外向性(Extraversion)」を重視などの条件にした場合は、こちらが有利になる状況も観察されたという。
ただ採用という場面では「誠実さ」「協調性」が重視されることは多いと考えられるので、経歴、年齢、志望動機などで拮抗していた場合、書類選考に名前が影響する可能性は意外と高いのかもしれません。
今回の研究はカナダやアメリカなど欧米の名前を対象としていますが、「音象徴」は日本語の名前でも見られる現象です。
たとえば、日本でも「たけし」や「けんじ」のようにカ行が入る名前には“元気”や“男らしさ”のイメージがあり、「さゆり」や「みなみ」といった柔らかい響きの名前には“優しさ”や“穏やかさ”を感じる人が多いのではないでしょうか。
つまり、今回明らかになった“音のバイアス”は、文化や言語が違っても、日本人にも思い当たる点がある現象なのです。
こうした名前のバイアスは、誰かを差別しようという意図がなくても、無意識のうちに働いているという点が問題でしょう。
研究チームも「公正な採用のためには、できるだけ書類選考の段階で名前を隠す“匿名選考”を取り入れることが望ましい」と提案しています。
とはいえこうした無意識に感じる印象のバイアスは、顔や声、話し方といった情報にも影響されることが示されているので、採用プロセス全体を単純に匿名化すればよい、という問題でもないでしょう。
こうした問題を取り払い、完全に公正な選考を実現しようというのはあまり現実的ではありません。
そもそも名前は、親がこうした子に育って欲しいという願いを込めてつけるものなので、必ずしも名前の印象をネガティブな意味で捉える必要はないでしょう。
ただ状況によって、名前の印象が他人の評価に影響するという事実は理解しておくことが重要です。
採用や進学、子どもの名付けなど、名前の響きが人生に与える影響は、私たちが思っている以上に深いテーマです。
今回の研究は欧米名での実施ですが、「名前の音」が持つ力は、世界中のさまざまな文化で無視できない存在だと考えられます。
今後は、人の評価には、こうした“音のバイアス”があるということを、評価する側も評価される側も意識した方が良いかもしれません。