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心筋梗塞は「感染症」の可能性もあるようだ (2/4)

2025.09.15 18:00:49 Monday

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心筋梗塞の原因となるプラーク中に「口の細菌」が含まれていた

心筋梗塞の原因となるプラーク中に「口の細菌」が含まれていた
心筋梗塞の原因となるプラーク中に「口の細菌」が含まれていた / Credit:Canva

心臓発作と細菌はどう関係するのか?

この謎を明らかにするために、研究チームは多くの人の血管の中身を詳しく調べました。

具体的には、病院の外で突然亡くなった121人の冠動脈(心臓に栄養を送る大切な血管)と、動脈硬化症(血管が硬くなり詰まりやすくなる病気)で手術を受けた96人の血管を集めて、合計で217人もの大規模な調査を行いました。

この血管の中には、動脈の壁に「プラーク」と呼ばれる脂肪のかたまりがあり、これが心筋梗塞を起こす主な原因と考えられています。

プラークは血管の内側に少しずつ蓄積していき、大きくなると血流を妨げます。

さらに、何らかの理由で破れると、その場所に血の塊(血栓)ができてしまい、血管を詰まらせてしまうのです。

今回の研究では、このプラークに細菌が潜んでいないかを調べるために、「DNA分析」という方法を使いました。

これは、細菌が残した遺伝子の痕跡を見つけることで、どんな細菌が血管の中にいたかを調べる方法です。

すると驚くことに、心臓の血管(冠動脈)のプラークのうち約42.1%、手術で取り出したプラークのうち約42.9%という非常に多くの割合で、「口腔レンサ球菌群(こうくうれんさきゅうきんぐん)」と呼ばれる細菌のDNAが見つかりました。

口腔レンサ球菌群は私たちの口の中に常に住んでいるごくありふれた細菌ですが、虫歯や歯周病を引き起こす原因の一部でもあります。

さらに研究者たちは「免疫染色」という方法を使って、この細菌がどこに潜んでいるのかを調べました。

免疫染色とは、細菌など特定の物質に色をつけて顕微鏡で見る方法です。

その結果、この細菌たちはプラークの中心部分で「バイオフィルム」という特殊なゼリー状の膜を作り、静かに隠れていることがわかったのです。

一方で、興味深いことに、プラークが破裂して心筋梗塞を起こした部分を詳しく観察すると、そこにはバイオフィルムから漏れ出したと考えられる細菌が存在しました。

またこの漏れ出した細菌を、私たちの免疫システムが「パターン認識受容体」というセンサーを使って見つけ出し、それに対して「獲得免疫」(過去の感染を記憶してより強力に反応する防御システム)が働き始め炎症も起き始めていることがわかりました。

これは、体が細菌の侵入に対して全力で抵抗しようとしている証拠でもあります。

ここから考えられる仮説としては、プラーク内で引きこもっていた細菌が出てきたことで、免疫との戦いが始まったというものです。

その結果として起きた炎症が、プラーク表面の繊維性被膜(フィブラスキャップ=“ふた”)を弱め、破綻(やぶれ)と血栓(血のかたまり)形成につながり得ることが示唆されます。

そして免疫に伴う炎症反応ががプラーク表面の繊維性被膜(フィブラスキャップ)を壊し、結果的にプラークの破裂と血栓形成を招いたと考えられます。

実際、本研究ではこの細菌の免疫染色の強さ(免疫陽性スコア)が動脈硬化の重症度と強く関連し、冠動脈疾患/心筋梗塞による死亡との統計的関連も報告されました。

言い換えると、ウイルス感染などの刺激をきっかけに、これまで静かだったプラークが免疫に認識されやすい状態になり、炎症経路の活性化を通じて被膜の脆弱化→破綻→血栓という流れに進みやすくなる可能性が見えてきた、ということです。

まだ原因を断定する段階ではありませんが、破裂部位での細菌の浸潤とTLR2経路の活性化(免疫の“見張り”のスイッチ)が同じ場所で観察されたことから、この機序は有力な仮説になり得ます。

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