運動すると「あまりお腹が空かない」理由は?
運動した日は「不思議とあまりお腹がすかない」と感じる人がいますが、これは単なる気のせいではありません。
その理由を説明するものとして、これまで「運動と食欲を結ぶ信号が体内に存在する」と考えられてきました。
研究チームが注目したのは、運動時に体内で増えるLac-Pheという代謝物です。
Lac-Pheは乳酸とアミノ酸のフェニルアラニンから作られ、特にスプリントや高負荷トレーニングなど強い運動後に血中濃度が一時的に上がります。
この上昇はヒトやマウスに限らず、競走馬などでも観察されており、運動に伴う普遍的な反応だと考えられます。
また過去の動物実験では、運動させたマウスだけでなく、Lac-Pheを外から与えたマウスでも摂食量が減り、体重が低下することが報告されています。
ここで重要なのは、マウスの範囲であるものの、投与による明確な副作用が報告されていない点です。
では、増えたLac-Pheは体のどこで“食欲オフ”の合図に変わるのでしょうか。
鍵を握るのは、脳の深部にある視床下部という領域です。
視床下部には食欲を調整する複数の神経細胞群がまとまり、私たちの「空腹」や「満腹」の感覚を日々きめ細かく調節します。
中でも弓状核にあるAgRPニューロンは「お腹が空いた」という信号を強める役割を持ちます。
一方で視床下部にある室傍核(PVH:Paraventricular nucleus of the Hypothalamus)ニューロンは空腹感を抑える働きがあり、「もう食べなくていい」という食欲抑制の信号を担います。
ふだんAgRPはPVHの働きにブレーキをかけるため、AgRPが強いと空腹感が増し、PVHが弱くなります。
そのため、運動で増えたLac-Pheがこの綱引きにどう介入するかが、今回の研究の焦点でした。