「裸の行進伝説」と、その真相とは?
最も有名なレディ・ゴダイヴァのエピソードは、「夫の重税に苦しむ市民を救うため、裸で馬に乗ってコヴェントリーの街を行進した」というものです。
伝説によれば、レオフリック伯はコヴェントリーの住民に過酷な税金を課していました。
これに心を痛めたゴダイヴァは、夫に減税を再三願い出ます。
しかしレオフリックはなかなか承諾しませんでした。
それでもしつこく減税を訴える妻に業を煮やした彼は「それなら、お前が裸で馬に乗って街を練り歩けば、税を免除しよう」と半ば冗談めかして言ったとされています。
驚くべきことに、ゴダイヴァはこの条件を受け入れます。
そして、街の人々に「その日は誰も外に出ず、窓も閉じて見ないように」と命じ、彼女は長い髪だけで身体を隠し、馬にまたがって街を進みました。ほとんどの市民は彼女の思いに応え、誰も外を見なかったといいます。

ところが、ただ一人、誘惑に勝てずこっそり覗き見した「トム」という男がいました。
彼はのちにのぞき見の罰として失明し、この話が今日の英語圏で「のぞき見する人」のことを「ピーピング・トム(Peeping Tom)」と呼ぶ由来になったとされています。
ただ、この伝説の史実性には疑問が残ります。
まず、ゴダイヴァが生きていた時代の同時代資料には、この「裸の行進」についての記録はありません。
最も古い伝承は彼女の死から約200年後、13世紀の年代記に現れます。
そのため、歴史学者の多くはこの話を「中世の道徳的寓話(=つくり話)」とみなしており、実際には起きていない可能性が高いと指摘しています。

それでも伝説によれば、ゴダイヴァが勇気ある行動を終えると、夫は約束通り重い税を撤廃しました。
そして市には馬にだけ課される通行税だけが残されたといいます。
興味深いことに、エドワード1世時代の記録調査では、実際にコヴェントリーでは馬以外の通行税がなかったことが事実として確認されているのです。
これがゴダイヴァによる「裸の行進」のおかげだったかどうかはわかりません。
それでも彼女の伝説的な物語は、今日のコヴェントリー市民にとって誇りとなっており、街には彼女を讃える銅像も作られました。
たとえ史実ではなかったとしても、レディ・ゴダイヴァの物語はコヴェントリーのアイデンティティとなり、現代まで大切に語り継がれているのです。
もとから重税はなくて、その理由を尋ねられた領主が妻の自慢を兼ねて作った作り話に一票。