広島大学が「虚空の幻熱」を検出する方法を考案
広島大学が「虚空の幻熱」を検出する方法を考案 / Credit:川勝康弘
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広島大学が「虚空の幻熱」を検出する方法を考案 (2/3)

2025.09.26 22:00:20 Friday

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加速すると真空が温かく見える不思議な現象

加速すると真空が温かく見える不思議な現象
加速すると真空が温かく見える不思議な現象 / リング状に配置された二つのジョセフソン接合の概念図。上下の接合にはそれぞれフラクソン(青色矢印)とアンチフラクソン(オレンジ色の矢印)が閉じ込められています。これらは磁気的に引き合い、ペアを形成し、リングに沿って移動します。各接合に流れるバイアス電流の向きは、黒い矢印で示されています。/Credit:量子と重力の架け橋:加速すると感じる「幻の熱」!? 宇宙の常識を覆す「量子の温もり」を測る新技術で新たな扉を開く〜超伝導回路で時空の謎解明へ、大きな一歩!〜

幻の熱をどうやって見るのか?

この長年の課題に対し、広島大学の片山春菜助教ら研究チームは新しい装置を提案しました。

それはジョセフソン接合(超伝導素子)という超伝導電気回路を使った小さなリング状の装置です。

その中には、磁気の粒であるフラクソンと、反対向きの磁束を持つアンチフラクソンのペアが閉じ込められています。

この2つは磁石のN極とS極のように互いに引き合い、ペアを作ります。

ペアになったフラクソンは、リング状回路の中を猛スピードで円運動し始めます。

この「円運動するフラクソン・ペア」こそが、今回の実験で「加速する観測者」の役割を果たします。

つまり、宇宙船で加速する宇宙飛行士の代わりに、この小さな磁束ペアが加速することで、真空の温もりを感じる“代理人”になるのです。

では、この磁束ペアが感じた「幻熱」はどうやって測るのでしょうか。

研究チームが着目した最大のポイントは、フラクソン・ペアが崩壊する瞬間を観測することです。

フラクソンとアンチフラクソンがペアで高速回転していても、永遠に離れないわけではありません。

あるきっかけでペアは「プツン」と壊れ、2つの粒は離れてしまいます。

この崩壊は電気回路に電圧の急上昇(電圧ジャンプ)として観測されます。

そこで、ペアが壊れる電流の値(スイッチング電流:電圧ジャンプが起きるときの電流値)を詳しく調べることで、温度を測ろうというわけです。

重要なのは、量子トンネル効果を無視した理想的な場合には、熱が全くないとき、崩壊が起きる電流値(スイッチング電流)は毎回同じになるという点です。

一方、装置にわずかでも温度がある(熱ゆらぎがある)場合は事情が変わります。

熱の揺らぎによる“ひと押し”でペア崩壊が早まったり遅くなったりする場合があるからです。

つまり、フラクソン・ペアの崩壊が起きる電流値が毎回バラバラになり、その値の分布が生まれます。

温度が高いほど予想外にペアが崩壊するケースが増えるため、スイッチング電流の分布は低い電流側へと広がっていきます。

言い換えれば、熱が高いほど「ペアが壊れやすくなる」ので、必要な電流(坂道の傾き)が小さくて済むようになるのです。

では、加速による幻熱がある場合はどうなるのでしょうか。

研究チームは特殊な超伝導回路内でのフラクソン・ペアの振る舞いを、コンピュータで精密にシミュレーションしました。

その結果、観測者(フラクソン・ペア)の加速度を上げていくと、スイッチング電流の分布がどんどん低い電流側にシフトすることが確認されました。

システムの物理温度は変えていないのに、加速を増すだけでペアが壊れやすくなり、まるで「有効温度」が上がったかのように振る舞ったのです。

このズレこそ、加速によって生じる「量子の温もり」=アンルー効果が存在することを示唆する数値的なシグナル(兆候)だと研究チームは位置づけています。

他の条件は一切変えていないのに加速だけで統計的な崩壊パターンが変化する様子は、まさにアンルー効果の「指紋」と言えるかもしれません。

さらにこの方法の素晴らしい点は、スイッチング電流の分布を詳しく分析することで極めて微小な温度の変化も高精度に測定できることです。

同じ実験を何度も繰り返してデータを集めれば集めるほど、“幽霊のように微かな熱”であっても敏感にあぶり出すことができます。

しかも従来の方法と異なり、エネルギーの連続的な変化にも対応できるため、より広い状況でアンルー効果を観測できる可能性があります。

言い換えれば、この新手法は高感度なだけでなく、汎用性も高いのです。

シンプルな電気回路を使って幻の熱を読み取るという、まったく新しい発想の温度計の設計が提案されたと言えるでしょう。

次ページ「真空に潜む量子の熱」――アンルー効果観測への課題と展望

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