DHAがラットの「精管平滑筋の収縮を弱める」と判明
実験の結果、DHAはノルアドレナリンによって誘発される精管平滑筋の収縮を、「濃度依存的」にしっかり抑制することが分かりました。
つまり、DHAの量が増えるほど、精管の収縮は急性かつ効果的に弱まるのです。
この効果が現れるのは、DHAを加えてすぐのタイミングで、従来の「長期摂取による効果」とは異なる“即効性”があることも新たなポイントです。
このDHAの“即効性”の秘密を探るため、研究チームは「筋肉の収縮に必須なカルシウムイオン(Ca²⁺)の流入経路」に注目しました。
精管平滑筋では、細胞膜上のカルシウムチャネルを通じてCa²⁺が細胞内に流れ込むことで筋収縮が起こります。
今回の研究で特に重要だと判明したのが、TRPC3/6チャネル(Transient Receptor Potential Canonical 3/6チャネル)というカルシウムの“入り口”であり、DHAに反応することが示されました。
つまり、DHAは主にTRPC3/6チャネル経由のカルシウム流入を抑えることで、精管の収縮を弱めると結論付けられます。
なお、TRPC3/6チャネルのmRNA発現量は精管で特に高く、前立腺のような他の組織ではこのチャネルがあまり存在しません。
そのため、DHAによる収縮抑制効果は精管ではっきり見られ、前立腺ではほとんど見られませんでした。
さらに注目すべきは、本研究で有効だったDHA濃度は、食事やサプリメント摂取後に到達可能なヒト血中DHA濃度の範囲とおおむね重なっているという点です。
これは「日々の青魚やサプリのDHAが、実際にヒトでも精管の働きに影響を及ぼす可能性がある」ことを示唆しています。
ただし、この研究はラットの精管を用いた基礎的な実験であり、こうした現象の分子レベルでの仕組みや、ヒトで本当に同じ効果が現れるのかなど、今後さらに検証が必要です。
今後は、ヒトの精管細胞や臨床サンプルを用いた研究、DHA摂取が男性の精液や妊娠率に与える影響を調べる臨床試験などが期待されています。
DHAの“即効性”に関する新しい発見は、男性不妊症の理解とその予防・治療に新しい光をもたらすかもしれません。