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無機物に興奮してしまう性的マイノリティ「オブジェクト・セクシュアリティ」 (2/3)

2025.10.18 21:00:12 Saturday

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なぜ“無機物”や“特定の動き”が性的に感じるのか

私たちが何に性的な魅力を感じるかという問題は、単なる生物学的な常識だけでは説明できません。

異性愛が一般的とは言っても、多くの人はそれ以外の「モノ」や「シチュエーション」に対して性的な興奮を覚えます。

奇妙に見えたとしても「モノ性愛」も同様であり、そこには心理学的にも神経的にも、いくつかの共通する構造が見えてきます。

まず注目されているのが、学習や条件づけによって形成される性的反応です。

心理学では、特定の刺激と快感が偶然結びつくことで、後にその刺激だけでも性的興奮が生じることがあります。

このような現象は「古典的条件づけ(classical conditioning)」や「オペラント条件づけ(operant conditioning)」と呼ばれ性愛やフェティシズムに関与していると考えられています。

たとえば、思春期に初めて性的興奮を感じたとき、偶然その場に“特定の物”があった、水が飛び散る光景を見たなどを経験したとします。

するとそのときの快感が「モノ」や「吹き出す動き」という視覚的刺激と重なって学習され、その後も同じような場面に遭遇したときに性的反応が呼び起こされるようになります。

またこの経験から、その後性的行動(自慰や空想)の際に同じ物を利用すると、性的快感と結びつく刺激として強化されていきます。

このようにして、「モノ」や「動きそのもの」に性的魅力が結びつくのです。

これは「制服」や「体操服」に興奮するという人も同じ理屈です。フェティシズムに関する意見が割れやすいのも、世代によって思春期によく目にするモノが異なるためだと考えられます。

つまり、オブジェクト・セクシュアリティは単なる嗜好ではなく、脳が快感を学習する過程で生じる“条件づけ”の一形態と考えることもできるのです。

これはフェティシズムの説明としてはよく聞く原理ですが、もちろんこれだけで全てが説明されるわけではありません。特に人間の存在は逆に性的興奮の邪魔になるというオブジェクト・セクシュアリティの場合は、単なる条件付けだけでは説明が難しいかもしれません。

無機物に心を投影する心理

さらに心理学的には、オブジェクト・セクシュアリティには投影と象徴化の構造が見られます。

人はしばしば、自分の感情や願望を外界の対象に投影します。

無機物や物理的現象に「意志」や「感情」を見いだすのは、人間の心理が本来持つ自然な働きでもあります。

しかしオブジェクト・セクシュアルの人々では、その投影が非常に強く、対象に“人格”や“関係性”を感じ取るまでに至ります。

これは、対人関係でのストレスや拒絶体験を避けるための、補償的な心理構造として働く場合もあります。

他者を介さずに完結する愛の形は、傷つけられる心配のない“安心できる関係”として、彼らに安定感を与えるのです。

つまり、「モノを愛する」ことは、単に性的倒錯ではなく、対人関係の代替的な安全地帯(safe attachment)であるとも言えるのです。

脳のつながりが生む“快感の錯覚”

神経科学の視点からは、オブジェクト・セクシュアリティは脳の連結性(connectivity)と関係している可能性が指摘されています。

サセックス大学の研究では、オブジェクト・セクシュアルの人々が、感覚処理と情動処理をつなぐ神経ネットワークに独自の活動パターンを持つことを示唆しています。

これは、視覚や触覚で受けた刺激が、通常よりも直接的に情動中枢へ届き、“理屈よりも先に感情が動く”という体験を引き起こします。

その結果、ある形や質感、動きといった単なる感覚刺激が、脳の内部では感情的な意味をもったものとして処理され、これが繰り返されることで、水が吹き出す、金属が光る、振動が伝わるといった現象が、本人にとっては深く心を揺さぶる官能的な体験として認識されやすくなると考えられるのです。

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