VR“幻覚体験”がもたらした脳と心の変化とは?
実験の結果、最も注目すべき点は、VR幻覚体験により、認知の柔軟性や創造性が大きく高まったことでした。
AIで加工された幻覚風VRを体験した後、参加者は「レンガ」や「クリップ」などの使い道をより多様に、かつ本来の用途から遠く離れた斬新なアイデアまで発想できるようになりました。
言い換えると、“ものごとを固定的に見る”脳のクセが一時的に緩み、普段なら考えつかない自由な発想がしやすくなったのです。
また、別のテストでも、無意識に反応してしまう自動的なクセを抑え、柔軟に切り替える力が上昇しました。
これらは、まさにサイケデリック薬物による「認知の拡張」と類似した現象です。
心理的な側面でも興味深い発見がありました。
どちらのVR体験でも、不安感は明らかに減り、リラックスした気分になると分かりましたが、「幻覚風VR」では特に“没入感”が強くなりました。
ただし、映像の複雑さや刺激の強さもあり、「この体験は自然ではなく、楽ではなかった」という報告も見られました。
また生理的にも、どちらの体験後も心拍数や交感神経活動が下がり、リラックス効果が確認されました。
こうした結果は、薬物を使わずとも、仮想現実とAIの組み合わせでサイケデリックに類似した認知変化が起こりうることを初期的に示したものです。
これは、「薬物を使いたくない」「治療薬が効かない」「新しい刺激で脳の柔軟性を取り戻したい」など、多様なニーズを持つ人々に、安全かつコントロールされた環境で“脳のリセット”をもたらす可能性があります。
ただし本研究にはいくつかの限界があります。
被験者は全員が健康な若い成人であり、高齢者や精神疾患のある人々で同じ効果が現れるかは分かりません。
加えて専門家は、「本物のサイケデリック薬物(幻覚剤)よりは安全だが、VR体験にもサイバー酔いや不快感などのリスクがないわけではない」と指摘しています。
今後はより多様な集団や患者を対象に、さらに脳波や皮膚電導などの生理データも含めて、効果の持続時間や安全性を検証する必要があります。
加えて、どの効果が「VR技術」自体によるものか、「幻覚体験」の内容によるものかを区別するため、さまざまなコントロール条件も比較していく必要もあるでしょう。
サイケデリック薬物(幻覚剤とも呼ばれる)の“脳の柔軟化”効果を、AIとVRの力で安全に再現するというこの研究。
ある種の懸念と可能性をもたらすこの分野が、今後も医療や福祉、教育の現場にどう影響を与えていくのか注目できます。
幻覚は見たこと何度かありますけど、幻覚だと分かって見る分には面白いですが、そうじゃない状態で見るとかなり来ますからね。
心臓弱い人には良くない気がします。