生きた菌類が傷を癒してくれる?
「菌類」と聞くと、多くの人はカビやキノコを思い浮かべるでしょう。
これらは落ち葉や枯れ木を分解し、自然界の“掃除屋さん”として知られています。
しかし菌類の本当の姿は、普段は目に見えない土の中や木の内部に隠れています。
そこには「菌糸体(きんしたい)」と呼ばれる細くて長い糸状のネットワークが広がっていて、まるで極細の綿あめや、極小の麺のように広がっているのです。
今回注目されたのは「マルカンドマイセス・マルカンディイ(Marquandomyces marquandii)」というごく普通の土壌カビ。
このカビを特別な液体培養で育てると、なんと80%以上もの水分を保持できる「生きたハイドロゲル」へと変身しました。
このハイドロゲルは、いわば「水をたっぷり吸水できるカビの層」です。
しかも驚くべきことに、ただのスポンジ状ではなく、層ごとに水分量や空間のスカスカ具合(多孔性)が異なる“多層構造”になっています。
たとえば上の層は40%ほどの多孔性があり、下の層には90%や70%といった高い多孔性の帯が交互に重なっています。
まるでミルフィーユのような作りです。
こちらは研究チームが作ったハイドロゲル。
この多層構造は、外から力が加わったときにクッションの役割を果たし、全体に均等に力を分散させるという「しなやかさ」と「強さ」を同時に生み出します。
実際の実験でも、この生きたハイドロゲルは何度も引っ張ったり押しつぶしたりされても、ほぼ元の形に戻る復元力を持っていました。
菌糸体の主成分は「キチン」と呼ばれる天然の繊維で、これはエビやカニの殻、昆虫の体の外側と同じ素材です。
キチンは生体適合性が高く、人の体にも優しい性質があり、医療分野でも注目されています。
しかも、菌類の成長方法はとてもユニーク。
栄養がある限り、どこまでもネットワークを広げ続け、外からの刺激や環境に応じて細胞の性質を自在に変えることができるのです。