菌由来の「バンドエイド」がもたらす新時代
では、なぜこの「生きたカビのハイドロゲル」がバンドエイドのような創傷治療材に向いているのでしょうか。
ひとつは、その「高い水分保持力」と「しなやかさ」です。
私たちの皮膚や筋肉、軟骨といった体の組織も、じつはたっぷりの水分を含み、柔らかくしなやかにできています。
今回の菌糸ハイドロゲルは、まるで生体組織のようなやわらかさと弾力性を実現しているのです。
しかも、多層のミルフィーユ構造が傷口にかかる力をうまく逃がし、長期間しっとりとした状態を保つことができます。
もうひとつの強みは「自然素材であること」と「生体適合性」です。
キチンは生分解性もあり、人体へのアレルギーリスクもきわめて低いとされています(ただし、すべての人にアレルギーがないとは限らず、今後さらに検証が必要です)。
また、菌糸体は植物の成長も助けることが知られており、環境にもやさしい素材です。
さらに培養条件を工夫することで、層の数や隙間の大きさ(多孔性)、厚みなどを自由に調節できる可能性があります。
たとえば、傷の種類や場所によって「通気性の高い層」や「密閉性の高い層」を作り分けるなど、オーダーメイドの創傷パッドも夢ではありません。
もちろん、今すぐ「キノコ由来のバンドエイド」が薬局に並ぶわけではありません。
動物や人への影響をしっかり調べる必要があり、安全性や長期安定性など、解決すべき課題も多く残っています。
しかし、従来のプラスチック製バンドエイドや人工素材にはない「自然と生体の力を活かした治療」が現実のものになれば、医療現場だけでなく日常生活も大きく変わるかもしれません。