サイケデリック薬物(幻覚剤)とは何か?仮想現実で目指した“新しい体験”
サイケデリック薬物――つまり幻覚剤とは、脳のセロトニン受容体などに作用し、知覚や思考、感情に劇的な変化をもたらす薬物群です。
LSDやシロシビン(マジックマッシュルームの成分)が有名で、体験者は現実とは異なる色彩・形状の知覚、自己と世界の境界が曖昧になる感覚、時には深い気づきや創造性の高まりを得ることも報告されています。
実は、近年になって欧米では「サイケデリック薬物がもたらす“意識の柔軟化”が、うつ病やPTSDなど従来の治療で改善しづらい症状に効果がある」という臨床研究が急増しています。
例えばシロシビンやLSDを使った心理療法では、脳内ネットワークの“固定化”がゆるみ、新しい考え方や自己認識が生まれることが示されています。
しかし一方で、サイケデリック薬物は予測不能な副作用や急性の幻覚・不安発作、長期的な精神健康リスク、さらには法的な規制問題も多く、一般的な治療として広く普及するには大きな壁があります。
「効果はほしいが、リスクや違法性は避けたい」――そんな発想のもとで登場したのが、“サイバーデリックス(Cyberdelics)”という、AI×仮想現実によるデジタル幻覚体験です。
今回の研究では、「サイケデリック薬物の視覚的な幻覚を、VRと人工知能を使って安全に再現できるのか?」「そして本当に、脳や心に同じような効果が現れるのか?」を検証しました。
方法はとてもユニークで、被験者(健康な成人50人)は仮想現実ゴーグルを装着し2つの動画を動画をそれぞれ10分間体験します。(視聴の順序はランダムです)
1つは、「ザ・シークレットガーデン」と題した日本庭園のリラックス映像(360度パノラマ映像)です。
もう1つは同じ映像をAIで加工し、複雑で夢のような“幻覚風”に変換したバージョンです。
そして体験の前後には、「創造性や発想力」「自動的な反応の抑制力」「感情や不安」「心拍や自律神経活動」など、心理・認知・生理指標を総合的に測定。
また「身近な物の新しい使い道をいくつ発想できるか」、「色と単語が食い違う刺激に対し、正しく反応できるか」を判断するテストを行い、認知の柔軟性や自己制御力を詳しく調べました。
では実際に、仮想現実による“幻覚体験”はどのような変化を生んだのでしょうか。