害虫を「騙す」発想が農業を変える

今回の研究により「害虫をこちらのルールで踊らせて自滅させる方法」を手に入れることができました。
人間が薬剤散布で直接に害虫を殺すのではなく、害虫自身に時限装置を起動させて“自殺”してもらう戦略です。
線虫からすれば天敵でも毒物でもなく、いつも通りの合図を受け取ったつもりで殻を破ったら、実はそこには餌となるジャガイモが居なかった──そんな手の込んだトリックによって退治されてしまうのです。
従来の農薬に比べても環境への負荷が少なくなる可能性があり、害虫だけを狙い撃ちできる点で次世代の防除技術の候補となるでしょう。
社会的なインパクトも大きい可能性があります。
この新たな防除法が実用化すれば、ジャガイモ農家はもちろん世界中の農業生産者に恩恵が及ぶでしょう。
ジャガイモシロシストセンチュウは世界各地で問題となっている難敵であり、本技術は海外でも幅広く線虫被害の解決に貢献できると期待されています。
実際、今回発見された化合物は化学構造が単純なおかげで大量合成に向いており、実用的な線虫防除剤としての開発も視野に入っています。
従来は高コストで現実的でなかった「自殺ふ化誘導」を、安全かつ安価に行える道が拓けた意義は大きいでしょう。
日本曹達も研究に参画しており、産学連携による製品化への期待も高まっています。
もっとも、本研究は室内に加えて圃場(ほじょう)でも効果が示されましたが、実際の農場条件下で安定した効果を再現できるかは今後の検証が必要です。
孵化促進物質を大量生産して散布する際のコストや、他の生態系への影響も慎重に評価しなければなりません。
しかしそれらの留保条件を差し引いても、今回の研究成果には非常に大きな価値があります。
なぜなら、単純構造の化合物群で「害虫の孵化スイッチ」を人間が押し、圃場で線虫密度を減らせることを示した点が新しいからです。
このコンセプト実証(PoC)が成ったことで、今後は実用化に向けた加速的な展開が期待できます。
研究グループも引き続き試験を重ね、本法を完成させていく計画です。
そしてこの新技術が実用化されれば、効率的かつ確実な線虫防除が可能となり、ジャガイモ生産の安定や農業の持続可能性に大きく寄与すると考えられます。
当該方法によっても10%は残るわけで、生き残ったものがまた卵を産めば・・・。種としての薬剤耐性はないのでしょうか。