眠りは徐々に起こるのではない――脳が眠る瞬間を捉えることに成功
眠りは徐々に起こるのではない――脳が眠る瞬間を捉えることに成功 / Credit:Canva
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眠りは徐々に起こるのではない――脳が眠る瞬間を捉えることに成功 (2/2)

2025.11.11 22:00:49 Tuesday

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脳が眠る瞬間を捉えることに成功

脳が眠る瞬間を捉えることに成功
脳が眠る瞬間を捉えることに成功 / Credit:Canva

眠りに落ちる瞬間――それは誰にでもあるのに、誰も見たことがない不思議な現象です。

研究チームは、この「見えない一瞬」を捉えるために、脳の活動をまるで地図のように描き出す方法を考案しました。

頭に取り付けた電極で脳波を読み取ることで、脳の状態を知ることができます。

これまでの脳波による睡眠判定と違い複数の要因(多次元)に別けて分析することで眠りに近づく過程を「空間の中を移動する道筋」として再構築したのです

これにより脳が眠る瞬間を捉えることが可能になりました。

さらに脳波データを分析すると、入眠の少し前に興味深い現象が起こることがわかりました。

眠りに入る約4.5分前になると、まず「臨界スローイングダウン」と呼ばれる特徴的な脳波の揺れが現れます。

これは大きな変化が起きる前兆として、脳の波形がゆったりと揺れたり、動きが鈍くなったりする現象です。

この現象の直後、脳の状態はまるで崖から落ちるように急に変化します。

この「ガクン」という切り替わりこそが、眠りへのスイッチが入る「転換点」でした。

この瞬間を過ぎると脳は覚醒状態に戻れず、雪崩のように眠りへと突き進みます。

さらに興味深いことに、この転換点は脳のすべての部分で同時に起きるわけではなく、部位によって少しずつタイミングがずれていることもわかりました。

視覚を処理する後頭部は、思考や判断を行う前頭部より平均約0.9分(約54秒)ほど早く眠りの状態に切り替わっていました。

後頭部が先に眠りモードに入り、前頭部が後から続くという順序があることで、私たちはあたかも眠気が徐々に深まっていくように感じる可能性があります。

研究チームはさらに、この入眠の仕組みを応用して「いつ眠るか」を秒単位で正確に予測する方法を作り上げました。

各人の脳波を分析し、その人特有の転換点をあらかじめ知ることで、次の日以降にどのタイミングで眠りに入るかを予測できるようになったのです。

その予測精度は非常に高く、平均0.95以上(最高は1.0)の一致度を示しました。

また、予測した転換点の時刻の誤差は平均約約49秒と分未満の秒単位であり、驚くほど正確に眠りの瞬間を特定できました。

こうした新しい発見により、眠りに落ちるという現象は、決してなだらかな坂道を降りるようなものではなく、「ある瞬間」に急激に起きることが明らかになったのです。

眠りに入るプロセスをここまで客観的に可視化できたのは今回の研究が初めてであり、睡眠科学における大きな前進と言えます。

従来は睡眠の開始時刻を厳密に定めることが難題でしたが、この研究により「ここからが睡眠」と言える新しい基準が得られるようになりました。

睡眠医学において、眠りの定義や評価法を見直す転機になるかもしれません。

実用面でも、この成果には期待が寄せられています。

例えば、不眠症で寝つけない人の治療や、脳の老化や認知症による変化の早期発見、さらには手術中の麻酔モニタリングの精度向上などに応用できる可能性があります。

また、運転中に「あと数十秒で眠ってしまう」という脳のサインを検知して事前に警告できれば、居眠り事故の防止にも役立つでしょう。

今後、入眠の転換点を制御するメカニズムがさらに解明されれば、必要なときにスムーズに眠りについたり、逆に眠気を抑えたりといった調節が可能になるかもしれません。

私たちが日常感じる「ウトウトからコテンと寝入る瞬間」が科学的に裏付けられた今、この知見を活かしてより良い睡眠と健康、そして安全な社会につなげていくことが期待されます。

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