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R2-D2の電子音も再現⁉「鳥の声マネ限界を調査したユニークな研究」 (2/2)

2025.11.22 21:00:56 Saturday

前ページ「R2-D2の声」は鳥の“音マネ能力”を調べる最適な素材だった

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「ムクドリの勝因」は“二重音”を操る特殊な喉にあった

鳥が音を発する器官は、喉の奥にある「鳴管(syrinx)」と呼ばれる構造です。

この鳴管は、種類によって動き方が大きく異なります。

ホシムクドリの仲間は、左右の鳴管を独立して動かすことができ、左右それぞれで別々の音を同時に鳴らすことができます。

この仕組みは「バイフォネーション(biphonation)」と呼ばれます。

インコとムクドリの鳴管の解剖学上の相違点を示した図

R2-D2の声には、まるで鏡合わせのように複数の周波数が同時に変化する“多重音”が含まれています。

ホシムクドリは、鳴管の構造そのものがこうした多重音と相性が良く、電子音に近い不思議な音を物理的に再現できる珍しい鳥だったのです。

研究チームがムクドリの声を、音の周波数成分を可視化した「スペクトログラム」という図で比較したところ、R2-D2の元の音とほぼ同じ形のパターンが現れていました。

電子音ならではの複雑な動きが、高いレベルで一致していたのです。

R2-D2とムクドリおよびオウムの模倣を比較したスペクトログラムの図

オウム類は“下手”なのではなく、発声の得意分野が違っていた

では、オウムやインコは音マネが苦手なのでしょうか。

実際にはその逆で、人間の声の模倣能力に関しては世界トップクラスです。

ただし、得意なのは“単一の音を明瞭に発声する能力”であり、複数の音が重なった人工音になると構造的な制約が見えてきます。

オウム類の鳴管は、ホシムクドリのように左右で二つの独立した音を同時に出すことはできません。

そのため、R2-D2の多重音のように複数の周波数が同時に変化する音では、どうしても再現が単純化されてしまいます。

それでも、多くの個体はR2-D2の主な音の高さやリズムを正確に模倣しており、電子音の部分的な特徴は十分に再現していました。

さらに興味深い点として、アフリカン・グレーのような大型オウムより、セキセイインコやオカメインコのような小型種のほうが“音の正確さ”で上回る場面が多く見られました。

この理由について研究チームは、大型種は幅広いレパートリーを持つ一方で、小型種は限られた音に集中して学習し一つの音を丁寧に磨き上げる傾向があるからではないかと考えています。

ちょうど、たくさんの曲を少しずつ覚えるタイプと、ひとつの曲のフレーズだけを完璧に仕上げるタイプの違いに近いイメージでしょう。

この研究の限界と見えてきた“自然実験”としての価値

今回の研究は、世界中の投稿動画を素材とした、市民科学的なアプローチで行われました。

そのため、どれだけ練習したのか、どんな環境で音を覚えたのかといった「学習過程」は把握できていません。

飼い主が数日で教えた可能性もあれば、毎日何度も音を聞かせ続けていた可能性もあり、学習量の違いが結果に影響している可能性は否定できません。

それでも、100本を超える動画から得られたデータには、人工音を模倣する鳥の“自然な行動”が多く残されていました。

専門の研究施設で計画的に訓練された動物ではなく、多くは飼い主との日常生活の中で覚えたと考えられる鳥たちの実例を調査できたという点は、この研究の大きな強みでしょう。(ただし、論文中でも個々の訓練方法の詳細は不明とされています)

今後は、個体がどのような手順で音を学んでいくのかを追跡する実験を行うことで、模倣能力の発達や学習メカニズムがより明らかになると期待されています。

R2-D2がきっかけになった“鳥の声の奥深さ”

R2-D2というユニークな人工音を題材にした今回の研究から、鳥の音マネ能力は想像以上に多様で、種ごとに異なる特徴を持つことが見えてきました。

彼らが模倣する音の種類は年々広がり、スマホの通知音や家電の操作音など、人間の生活が作り出す音も取り込まれつつあります。

これからの時代では人の声マネよりも、電子音を自在に操る“ロボ声の達人”としての鳥たちの姿が当たり前になっていくのかも知れません。

日常の音をまねる鳥たちは、私たちが気づかないうちに、人工音の世界を着実に学び続けているのです。

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