クリスマスぼっちの『公開処刑感』と社会学

ここまで見てきた「クリスマスのしんどさ」の裏には、「カップル規範」と呼ばれる考え方があります。
これは「みんな恋人がいて当たり前だよね」という軽いノリではなく、「大人になったら誰かとカップルになるのが普通でしょ」と社会の側が決めている前提のことです。
Roseneilらが編集した『The Tenacity of the Couple-Norm』(2020)は、カップルであることが、法律や社会制度、政策、ふだんの生活の習慣にまで深くしみ込んだ“制度的な当たり前”として続いている様子を詳しく描いています。
カップル規範は、「恋愛が好きか嫌いか」といった個人の好みではなく、「そろそろ恋人つくらないの?」のような期待から、「結婚して一人前」といった命令に近いメッセージまで、いろいろな強さのサインがグラデーションになって人を動かし、結果的に人生の進み方を形づくるものだと整理されています。
そして別の書評は、このカップル規範が、「カップルであること」を“普通で立派な大人”になるためのメインルートとして持ち上げてしまう、とまとめています。
つまり、「ちゃんとした大人=誰かとカップルになっている人」というイメージを、社会全体で強くしてしまうのです。
この視点であらためてクリスマスを眺めてみると、イベント期の痛みは単純な「寂しさ」よりも、「自分が採点されている感じ」に近いと考えられます。
恋人がいる/いないは、ただの現在の状態ではなく “人としてどのくらい評価されるか”に結びつきやすいように感じられます。
これが、反感や嫌悪の大きな燃料になります。
つらさの中心にあるのも、やはり孤独そのものというより、「カップルでいろ」という命令に従っていない自分が、みんなの前にさらされてしまう感じです。
言い換えれば、カップル前提の舞台の上に一人だけ立たされる“公開処刑感”です。
この構造は、クリスマスにだけ起こる特別なものではありません。
2006年の米国の消費者研究であるCloseとZinkhanの研究は、バレンタインデーが「みんなにとって甘くて幸せな日」ではないことを、かなり率直に描いています。
バレンタインは、一部の人にとっては「自分が独り身であること」をわざわざ思い出させる“歓迎されないリマインダー”になります。
また、「プレゼントやディナーにお金を使うことが、愛情を証明することだ」と社会から求められる日でもあります。
その結果、バレンタインは人によって、恋愛の高揚感やうれしさだけでなく、義務感、自己嫌悪、自分も相手も嫌になるような嫌悪感のきっかけにもなりうる、と指摘されています。
以上をまとめると、クリスマスへのネガティブな感情は、「自分だけ寂しい」という一点だけでは説明できません。
ふだんはそこまで気にならなくても、クリスマスのような“本当は誰かと一緒に過ごすはずの日”になると、社会全体の時間割が一斉にカップル基準へと寄っていき、独り身でいる人や、その枠から少し外れている人の存在が強く浮かび上がります。
さらにカップル規範は、「恋人がいること」が「普通で立派な大人」へのわかりやすい道だというイメージを支え、クリスマスのようなイベント期には、その評価の回路をこれでもかと見せつけます。
ある意味で、クリスマスの苦しみは、個人のせいではなく、社会が作った「カップル前提の脚本」が、一時的に音量を最大まで上げる現象だと言えるでしょう。
この仕組みを理解していれば、もしクリスマスやバレンタインなど「社会の目」を意識させる時期が巡って来ても、苦しみは自分から出たものではなく外からのものだとふっきることもできるかもしれません。


























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