あくびは脳の『血と水の流れ』を切り替えていたと判明
あくびは脳の『血と水の流れ』を切り替えていたと判明 / Credit:川勝康弘
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あくびは脳の『血と水の流れ』を切り替えていたと判明 (2/3)

2026.02.03 20:05:25 Tuesday

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あくび中、脳の水と血がごっそり動いていた

あくび中、脳の水と血がごっそり動いていた
あくび中、脳の水と血がごっそり動いていた / Credit:Biomechanics of yawning: insights into cranio-cervical fluid dynamics and kinematic consistency

あくびにはあくびしかできない「何か」があるのか?

答えを得るため研究チームはまず、健康な大人を磁気共鳴画像装置に入ってもらい、「ふつうの呼吸」「口を大きく開けた深呼吸」「あくび動画を見て自然に出たあくび」「あくびをこらえたとき」の四つの動きをしてもらいました。

そのあいだに首の上の方、首の骨でいうと三番目あたりで、脊髄液の流れと内頸静脈を流れる血液の流れが、どの向きにどれくらいの速さで動くのかを、別々に連続的に記録しました。

また空気の出入りの強さや、「ごくん」と飲み込む動きが起こるタイミングも測定し、あくびの前後で呼吸やのみ込みがどう変わるのかも調べました。

その結果、ふだんの静かな呼吸に比べると、深呼吸のときもあくびのときも、首を通る脳脊髄液と静脈の血液の流れの強さがぐっと大きくなることがはっきりしました。

ただ空気の流れを測る実験では、深呼吸のときとあくびのときでは、吸い込む速さも吐き出す速さもほとんど同じで、はっきりした差は見つかりませんでした。

つまり「あくびの方が、ものすごくたくさん空気を吸っているから特別なのだ」というわけではない、ということがわかります。

「あくびは大量の酸素を取り入れる」と聞いたことがある人も多いでしょうが、深呼吸と変わらないという結果は、このよく聞く酸素とあくびの結びつける説を揺るがせます。

研究ではMRIを使用して、あくびの様子を詳細に記録し分析した
研究ではMRIを使用して、あくびの様子を詳細に記録し分析した / Credit:Biomechanics of yawning: insights into cranio-cervical fluid dynamics and kinematic consistency

ところが、流れの「向き」までくわしく調べると、深呼吸とあくびでは、はっきりした違いが見つかりました。

まず深呼吸で大きく息を吸ったときには、脳脊髄液は頭の方へ向かって流れ、血液は首から胸の方へ向かって流れ出していくパターンが多く見られました。

簡単にいうと、深呼吸では「水は上へ、血は下へ」という結果です。

これに対して、多くのあくびでは、口を大きく開けてぐっと息を吸い込む瞬間に、脳脊髄液と静脈の血液がどちらも頭から首へ、つまり下のほうへ流れるというパターンがみられました。

頭の中の水路からも、血の通り道からも、中身がまとめて首の方に引っぱり出されるような動きです。

深呼吸が「水は上へ、血は下へ」ならば、あくびは「水は下へ、血も下へ」という傾向が見えてきたのです。

この違いは、あくびが単なる「強めの深呼吸」ではないことを示しています。

深呼吸もあくびも、空気の出入りや流れの強さは似ているのに、脳脊髄液と血液がどう組み合わさって動くかは大きく異なるからです。

研究者たちは、あくびのときには、あごや舌、のどのまわりの筋肉が独特のタイミングで動くことで、胸の中と頭の中の圧力のかかり方が変わり、その結果として「脳から下へ向かうそろった流れ」が生まれているのではないかという予測を記しています。

もう一つの大きな発見は、「同じ人のあくびの動きが、何度くり返してもほとんど同じだった」という点です。

研究チームは、舌の先の少し後ろの部分を目印にして、その点が時間とともにどんな軌跡を描くかを計算しました。

その結果、一人の参加者の中で、別々のタイミングで出たあくび同士を比べると、その軌跡はとてもよく重なり合い、ほぼ同じ線をなぞっていることが分かりました。

数値としても、動きの似かたを表す指標がほとんどの人で高い値を示しており、なかには「ほぼ完全に一致」と言える人もいました。

さらに興味深いのは、「がまんあくび」の場合です。

参加者が口を閉じてあくびをこらえようとしても、舌の奥のほうの動きのパターンは、口を大きく開けた本物のあくびととてもよく似ていました。

外から見ると控えめなあくびでも、舌やのどの奥では「いつものあくびのプログラム」がちゃんと走っているように見えるのです。

飲み込みの動きにも、あくび特有のパターンが見つかりました。

実験で、あくびをしたあとの喉の動きを調べたところ、あくびの直後には、八割の確率で「ごくん」と飲み込み動作が起きていることがわかりました。

またあくびをこらえた場合でも約七割で飲み込みが続きました。

この「ごくん」という飲み込み動作は、単なる深呼吸のあとは平均で二割にも満たない頻度でした。

つまり、「あくび→ごくん」という順番は偶然だけではなさそうで、脳のほうでセットになって準備されている動きだと考えられます。

こうした結果を総合して、研究者たちは「あくびは、たんに大きく息をするだけの動作ではなく、脳幹とよばれる深い部分にある神経回路が組み立てた、一連の自動プログラムに従って起こる特別な動きなのではないか」と解釈しています。

この自動プログラムは、まず舌を引き、口を大きく開けて息を吸い込み、のどの形を変えながら息を吐き、最後に飲み込みで締めくくるという順番で進み、その途中で首の中の脳脊髄液と血液の流れを独特の形に組み替えている、というわけです。

もちろん、この研究だけで「あくびの本当の目的」が完全に分かったわけではありません。

しかし、「あくびのときには、脳のまわりの液体と血液が、深呼吸とはちがう特別なパターンで流れる」ということが、磁気共鳴画像という客観的なデータで初めて示された意義は大きいと言えます。

では、この独特な流れはいったい何のために行われているのでしょうか?

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