カフェインはマウスの「もうダメ…」を救う

カフェインは本当にストレス脳を変える力を持っているのでしょうか。
その答えを探るために、研究者たちはまず大規模な文献さがしから始めました。
対象になったのは、不安やうつを再現するようにストレスをかけられたネズミやラットです。
具体的には、先に述べたように、狭いところに何時間も閉じ込める、猫のにおいを嗅がせる、睡眠を奪う、細菌毒素LPS(リポ多糖)を注射する、といった方法で「不安っぽい」「うつっぽい」状態を作ります。
その後、カフェインを少量から中等量、場合によってはかなりの高用量まで飲ませたり注射したりし、行動の変化を測りました。
不安やうつ状態が解消されたかを調べるにあたっては、高いところの十字型迷路で開けた道にどれだけ出ていけるかを見る高架式十字迷路、暗い箱から明るい箱へ出てこられるかを見る明暗箱、甘い水をどれだけ好むかを見るテスト、水槽からどれくらいあきらめずにもがくかを見る強制水泳テストなどです。
(※繰り返しになりますが、これら動物実験は全て厳正な倫理審査を経たものであり正当な研究です)

すると多くの研究では、中くらいの量のカフェインを与えられた動物は、開けた場所をよく探検し、甘い水をまた好み、水の中でもすぐにはあきらめなくなりました。
同時に、脳の中ではいろいろな変化が起きていました。
炎症を進める物質(IL-1βやTNF-alpha、IL-6)が減ると同時に逆に炎症を抑える物質(IL-10やIL-4)が増えたという結果が多く見つかりました。
また脳の神経を支える細胞(ミクログリア(脳の免疫細胞)やアストロサイト(脳の支え役))の過剰な活性も落ち着き、酸化ストレスの指標であるMDA(脂質のサビの量)も減少し、抗酸化酵素が増える例も報告されています。
さらに脳の栄養になるたんぱく質(BDNF)が増え、新しい神経のつながりが育ちやすい環境になっていた、というデータもありました。
中には、カフェインで前処理した免疫細胞を移植する形で、ストレスで落ちた行動が戻ったと報告した研究もありました。
一方、用量を上げすぎると話は変わります。
論文は用量の幅が大きいことを強調し、体重1キログラムあたり5〜50ミリグラムの量では好転が多い一方、200ミリグラムのような高用量は不安がむしろ悪化したり、記憶が落ちたり、炎症マーカーが増えたりする「裏返し」の結果が出ました。
また別のレビューを引き、ヒトではパニック障害の人で400〜750ミリグラム(約5杯分とされる量)を摂取するとパニックが誘発・悪化し得る可能性にも言及しています。
少量の塩が料理をおいしくする一方で、入れすぎると全部しょっぱくなるように、カフェインも「加減」がとても大事だということが分かります。
(※なおFDAは多くの健康な成人で 1日400 mgが「一般に悪影響と結びつきにくい」目安(個人差あり)と報告しています。)
これらをまとめると、動物実験では、適切な量のカフェインは、眠気やだるさを生むスイッチ(アデノシン受容体)が関わる可能性もあり、ミクログリアの暴走を抑え、酸化ストレスを弱め、BDNFなどの「脳の栄養」を増やす方向に働き、結果として不安・うつ様行動を軽くしている可能性がある、と解釈できます。




























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