旅するDNAが描き変える“遺伝の地図”

今回紹介した二つの研究により、「人がどこまで移動するか」や「どこへ移動しやすいか」には、ごく小さな遺伝的な傾きが存在し、それが脳の発達や教育への志向性と結びついている可能性が示されました。
2026年のプレプリントは、胎児のころからの脳の発達、とくに興奮性ニューロンの働きやすさに関わる遺伝子の組み合わせが、長距離の移動とゆるく関連していることを示し、同じ指標が古代人の移動や現代の地域ごとの経済成長ともつながっているかもしれないと報告しています。
一方、2025年のエストニアの研究は、より身近なスケールで、「高学歴になりがちな遺伝子を持つ人が都市に集まり、その結果として国の中の遺伝的な地域差が強まっていく」というプロセスを数字で描き出しました。
とくに、同じ家庭の似た環境で育った兄弟姉妹のあいだでさえ、「上京組」と「地元残留組」のあいだに同じような遺伝子の差が見えるという結果は、移動と遺伝子の関係を印象付けます。
これれらの結果は、社会全体の設計においても重要です。
なぜなら、「移動する/しない」という私たちの選択が、長い時間スケールでは、どの地域にどんな人が集まり、どの地域にどんな産業や文化が育ちやすいかという、社会のかたちそのものに関わってくるからです。
首都への一極集中などを、単なる仕事の多さやアクセスのしやすさという環境だけでなく、遺伝子という新たな視点で見る切欠にもなるはずです。
そして2026年の研究が示唆するように、遠くへ移動しやすい人たちが、新しいアイデアやスキル、リスクを取るエネルギーを持ち込むことで、地域の経済成長にわずかに関連している可能性もあります。
一方で、「移動しにくい」人たちが置かれた状況をどう支えるか、という視点も同じくらい重要です。
もし、都市へ出ていく人たちの多くが「教育や収入の面で有利な遺伝的傾向」を持っているなら、もともと不利な状況にある地域は、二重三重に不利になりかねません。
この研究成果をうまく活用できれば、「上京組」も「地元愛」も、それぞれの良さを生かした社会づくりに役立てることができるかもしれません。
例えば、遠くへ移動しがちな人たちのエネルギーをイノベーションや開拓に向けつつ、地元に残る人たちの安定性やコミュニティへのコミットメントを地域づくりに生かす、といった発想です。
もしかしたら未来の世界では、自分の「旅人遺伝子スコア」を知ることで遺伝子からの囁きを知る手助けになるかもしれません。





























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