偏在する「未発見の蜂」と専門家不足というボトルネック
推定値を地域別に分解すると、世界のどこに「見つかっていないハナバチ」が多いのかも見えてきました。
特に未記載種が多いと推定されたのは、アジア・アフリカ・南米です。
具体的には、アジアでは現在知られている種数に対して約40%、アフリカでは約34%、南米では約29%の上乗せが見込まれています。
一方、ヨーロッパは比較的飽和に近く、スウェーデンやスイスのような国では、既知の種数が実際の多様性にかなり近づいていると考えられます。
国別に見ると、トルコでは約843種が未記載と推定されており、これはヨーロッパ大陸全体で見込まれる未記載種数よりも多いという意外な結果も示されました。
また、島国は面積あたりで見ると大陸国家よりもハナバチの種多様性が高いことも分かりました。
島は固有種が生まれやすい一方で、気候変動や海面上昇の影響を強く受けるため、保全上きわめて重要な地域であることが改めて浮き彫りになっています。
では、なぜこれほど重要な生き物の種数が、ここまで長いあいだ正確に分からなかったのでしょうか。
研究チームが指摘する大きな理由は、「分類学的ボトルネック」です。
1960年以降、ハナバチの新種は年平均でおよそ117種ずつ記載されてきました。
このペースはほぼ一定で推移しており、「新しい種が見つからなくなってスピードが落ちている」というわけでもありません。
むしろ、世界にはまだ多くの未発見種が残っているにもかかわらず、それを調べて正式に記載できる専門家が足りていない可能性が高いのです。
さらに、DNAを用いた解析が十分に行われていない地域も多く存在します。
見た目は同じように見えても、遺伝的には別の種である「隠れた種」が含まれている場合、それらは普通の観察だけでは見分けられません。
研究では、1人あたりGDPが高い国ほど未記載種の割合が低い傾向が見られました。
これは「自然の豊かさ」だけではなく、「研究に投じられるお金や人材の量」が、どれだけ種を見つけられているかに大きく影響していることを示しています。
今回得られた2万4705〜2万6164種という数字は、「最低でもこのくらいはいるだろう」という保守的な推定です。
DNA解析や標本データの整備が進めば、この数字がさらに増える可能性もあります。
また、この研究で用いられた統計的アプローチは、ハナバチだけでなく、他の昆虫や生物グループにも応用できます。
地球上に何種類の生き物がいるのかという古くて大きな問いに対して、具体的な方法を提示したという点でも、この研究は大きな意義を持っています。
現在の新種記載のペースが続いた場合でも、今回推定された「未記載のハナバチ」をすべて記載するには少なくとも30〜40年ほどかかると見込まれます。
実際には、残された種ほど見つけるのが難しくなることや、専門家不足が続くことを考えると、さらに時間がかかる可能性もあります。
今後は、分類学者の育成や研究資金の拡充、データベースの整備など、「ハナバチを数えるための基盤づくり」も重要な研究テーマになっていきそうです。
この研究が示したのは、受粉を担うハナバチは最大2万6000種存在する可能性があり、その多くはまだ名前すら与えられていない、ということです。
私たちの食卓を支える小さな相棒たちの正体を、どこまで解き明かせるかは、人類がどれだけ本気で生物多様性と向き合うかにかかっているのかもしれません。




























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