蚊を利用した「空飛ぶ注射器」で、動物に免疫を持たせることに成功
まず研究チームはは、ワクチン入りの血液を吸わせたネッタイシマカの体内で、組換え水疱性口内炎ウイルスが少なくとも18日間維持され、唾液腺からも検出されたと報告されています。
つまり、蚊はワクチンを抱え込むだけでなく、吸血の際に相手へ渡せる状態になっていたわけです。
マウスの実験では、ワクチンを保有した蚊をすりつぶした試料を口から与える方法と、ワクチンを持った蚊に吸血させる方法の両方が試されました。
狂犬病ワクチンでは、前者の方法で中和抗体が上がり、感染試験ではワクチンを保有した蚊をすりつぶした試料を5匹分与えた群で91.6%、20匹分与えた群では100%が生存しました。
吸血による接種では58%でしたが、対照群が全滅したことを考えると、防御効果は明らかです。
コウモリでの結果はさらに重要です。
研究チームは、Murina leucogaster というコウモリに2回ワクチンを与えたあと狂犬病ウイルスで感染試験を行っています。
その結果、蚊に刺される方法では4匹中4匹が生存して100%、ワクチンを保有した蚊をすりつぶした試料を口から与えた群では4匹中3匹が生存して75%でした。
少数例ではありますが、「コウモリにワクチンが効き得る」ことを実験的に示したのは大きな成果です。
塩トラップについては、北京の洞窟に設置した装置の塩水にテトラサイクリン(目印となる抗生物質)を混ぜ、野生コウモリが実際に飲むかが調べられました。
その結果、1週間後に集めた新しい糞の85%からこの物質が検出されました。
これは、多くのコウモリが実際にトラップへやって来て塩水を口にしていたことを示します。
ここで確認されたのは野外でのワクチン効果そのものではありませんが、野生のコウモリがこの配送装置を利用する可能性は十分あると分かります。
この研究が面白いのは、コウモリの自然な免疫と、ワクチンで与える免疫が別物だと分かる点です。
コウモリは多くのウイルスを抱えていても、自分では重い症状を示さないことが多い動物です。
しかしそれは、ウイルスが体内に居続けられる余地があるということでもあります。
今回のワクチンは、そうした自然な状態とは別に、狂犬病やニパウイルスのような特定の病原体を狙った獲得免疫を持たせようとするものです。
狙いは、コウモリ自身の保護だけでなく、そこから他の動物や人間へ広がるリスクを減らすことにあります。
もちろん、研究で作られた「空飛ぶ注射器」は、すぐに野外へ放てる段階にはありません。
実際の応用には規制や生態系への影響、安全性評価が必要です。
特に、作製した蚊をどの範囲に放すのか、他の動物へどこまで影響するのか、自然条件で十分な接種率を得られるのか、といった問題は今後の課題です。
それでも、この研究が示した意味は小さくありません。
感染症が人間社会に入ってきてから追いかけるのではなく、流行の上流にいる野生動物の段階で食い止めるという発想を、かなり具体的な実験として形にしたからです。
もし今後、この方法が安全に洗練されていけば、コウモリをむやみに駆除せずに感染症リスクを減らす「新しい防疫の形」につながるかもしれません。



























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