CAR-Tという、改造された追跡型の部隊

CAR-T療法の発想は、実にシンプルでいて大胆です。
ここで、一人の新しい登場人物を紹介させてください。「T細胞」です。
免疫システムには、B細胞のほかに、このT細胞というもうひとりの主役がいます。
B細胞が「敵の指名手配書を作る担当者」だったとすれば、T細胞は現場で実際に動く処分係です。
ウイルスに感染した細胞や、がん細胞を見つけ出し、その場で始末する。
免疫という警備会社の中では、捜査ではなく実働を担当するチームだと思ってください。
このT細胞には、面白い特徴があります。自分で「誰を狙うか」を決めているわけではないのです。
T細胞の表面には、敵を見分けるための小さなアンテナのようなものがついていて、このアンテナが「この顔に反応せよ」と指示された相手にだけ襲いかかります。
つまりアンテナを取り替えれば、T細胞は別の相手を狙うようになる──ここに研究者たちは目をつけました。
そして彼らが狙いを定めたのは、同じ警備会社の「仲間」であるはずのB細胞でした。
B細胞は本来、敵の指名手配書を作ってくれる味方です。
けれど、今回のように誤作動を起こして自分の体を襲い始めると、もう手がつけられない。ならば、もう一方の主役であるT細胞のアンテナを付け替えて、暴走した仲間を取り締まらせてしまおう──そういう発想です。
やや映画チックに言えば「指示通りに対象を抹殺していた処刑人が改造手術を受けて、裏切りを起こしていた指示役を抹殺した」という感じでしょう。
具体的な手順はこうです。
まず、患者自身の血液からT細胞を取り出します。
次にそのT細胞のアンテナを付け替える「B細胞の目印(CD19という分子)を見つけたら襲いかかれ」という新しいアンテナを、遺伝子操作で組み込むのです。
こうしてできた改造T細胞を研究室で大量に増やし、患者の体に点滴で戻す。
ここが、さきほどのリツキシマブとの決定的な違いです。
リツキシマブは血流に乗って漂う「退去ステッカー」でしかなかったので、リンパ節や骨髄の奥までは届きませんでした。
ところがT細胞は、生きた細胞です。
血管の壁をすり抜け、自分の足でリンパ節の奥にも、骨髄の奥にも入っていける。隠れ家に潜んでいた誤作動のB細胞を、一軒残らず追いかけて片付けることができるのです。
この改造T細胞を、英語で「Chimeric Antigen Receptor T cell」と呼び、頭文字を取って「CAR-T」と言います。
CAR-Tはもともと、白血病や悪性リンパ腫といった血液のがんを治すために開発されました。
血液のがんの多くはB細胞そのものが異常に増える病気なので、「B細胞を狙って片付ける」という同じ戦略が効きます。
そして2021年、同じエアランゲン大学病院のミュラー医師のチームが、「自己免疫疾患の根っこにあるのも結局はB細胞の暴走なのだから、がんと同じ手が効くのではないか」と考え、全身性エリテマトーデス(ループス)を抱える20歳の女性に世界で初めてCAR-Tを投与して成功させました(翌年『Nature Medicine』に発表)。
今回の47歳女性は、その延長線上にある症例です。
ただし、三種類もの自己免疫疾患を同時に抱えた患者に効いた例は、世界で初めてです。



















































