幻覚が告げた内容は「すべて正しかった」
検査の結果、驚くべき事実が明らかになります。
女性の脳には、実際に腫瘍が存在していたのです。
具体的には、左右の大脳半球の間に発生し、脳を覆う膜(髄膜)から生じる腫瘍でした。
しかもその大きさは、長さ約6.4センチ、幅約3.8センチと、決して小さくはありませんでした。
この結果を受け、医師たちは腫瘍の摘出手術を提案します。
そしてここでも、あの声は「その判断に全面的に賛成する」と語ったといいます。
手術は無事成功し、女性が意識を取り戻したとき、声は最後にこう告げました。
「あなたを助けることができてうれしい。さようなら」
その後、声は二度と現れませんでした。女性は後遺症もなく回復し、幻覚用の投薬も中止。
手術から12年後、女性は精神科医に電話をかけ、季節の挨拶を伝えるとともに、それ以来ずっと症状がないと語っています。
なぜ「声」が病気を言い当てたのか?
脳腫瘍や脳の損傷が、幻覚や精神症状を引き起こすこと自体は珍しくありません。
実際、脳の異常は不安や抑うつ、認知機能の低下だけでなく、幻聴や幻視にも関係することが知られています。
しかし、この女性の症例が特異なのは、「幻覚が未知の病気を正確に指摘し、さらに治療の方向まで導いた」という点にあります。
担当した精神科医も、同様の報告例はこれまでに存在しないと述べています。
では、この現象はどのように説明できるのでしょうか。
一つの仮説として、女性が無意識のうちに身体の異常を感じ取っていた可能性が指摘されています。
脳そのものには痛覚はありませんが、それを覆う髄膜には痛覚があります。そのため、腫瘍による微細な違和感が、不安や違和感として蓄積されていた可能性があります。
そしてその不安が、「自分でも気づいていない情報」に注意を向ける形で、あたかも外部からの声のように表現されたのではないか、というのです。
実際、腫瘍の摘出後に声が完全に消失したことは、これらの症状が腫瘍の存在と密接に関係していたことを示唆しています。
場合によっては、腫瘍そのものがこうした異常な知覚体験を生み出していた可能性も考えられます。
私たちは普段、「自分の身体の異変は自分が一番よく分かる」と考えがちです。
しかしこのケースは、その「気づき」が必ずしも意識の表面に現れるとは限らないことを示しています。
もしかすると私たちの脳は、言葉にならない異常を別のかたちで知らせているのかもしれません。