老化による「脳の炎症」を抑える点鼻薬を開発
年齢を重ねると、記憶力や集中力が少しずつ落ちていくことがあります。
これまでは、その原因は単純に脳の機能低下や神経細胞の衰えだと考えられがちでした。
しかし近年は、脳の老化には「慢性的な炎症」が深く関わっているのではないか、という見方が強まっています。
この状態は「神経炎症」と呼ばれます。
脳の中には、ミクログリアと呼ばれる免疫細胞があり、ふだんは不要なものを片づけたり、異常が起きたときに対処したりしています。
ところが老化が進むと、このミクログリアが長く興奮した状態になり、炎症を引き起こす物質を出し続けるようになります。
その結果、脳の中で弱い炎症がくすぶり続け、神経細胞に負担がかかり、記憶や学習に関わる働きが落ちていくと考えられています。
つまり脳は、単に壊れていくというより、炎症によって本来の力を発揮しにくくなっている可能性があるのです。
そこで研究チームが注目したのが、細胞外小胞と呼ばれる非常に小さな粒子です。
これは細胞が放出する微小な袋のようなもので、内部にはさまざまな情報分子が入っています。
今回使われたのは、ヒトiPS細胞から作った神経幹細胞に由来する細胞外小胞でした。
この小胞には、マイクロRNAと呼ばれる分子が含まれています。
マイクロRNAは、遺伝子の働きを細かく調整する役目を持ち、細胞の反応を強めたり弱めたりすることができます。
研究チームは、こうした小胞の中に、炎症を抑えたり、細胞を守ったりする働きを持つ分子が含まれていることに注目しました。
特に重要だったのが、炎症の引き金の一部を抑えるマイクロRNAであり、これが脳の状態を立て直す助けになるのではないかと考えられました。
さらに、この研究の大きな特徴が細胞外小胞の投与方法です。
脳には血液脳関門という防御の仕組みがあり、多くの薬は血液に乗っても脳の奥まで届きにくいことがあります。
そこで研究チームは、点鼻薬を使って細胞外小胞を「鼻から」投与しました。
鼻から投与された物質は、「血液脳関門」を回避し、脳に近い経路を通ることで、より効率よく脳内に到達できると考えられています。
つまり点鼻薬なら、脳へ届けやすい非侵襲的な手段になる可能性があるのです。
実際、マウス実験で投与された小胞は短時間のうちに脳の広い範囲で確認され、特にミクログリアや神経細胞に関わっていることが示されました。
次項で実験の詳細を確認しましょう。




















































