量子電池は「時間の逆行」で充電できる可能性がある――「観測」を打ち消すと起きること
量子電池は「時間の逆行」で充電できる可能性がある――「観測」を打ち消すと起きること / Credit:Canva
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量子電池は「時間の逆行」で充電できる可能性がある――「観測」を打ち消すと起きること (3/3)

2026.04.17 18:45:23 Friday

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時間の矢を縮めると、量子電池の充電に使えるエネルギーが取り出せる

時間の矢を縮めると、量子電池の充電に使えるエネルギーが取り出せる
時間の矢を縮めると、量子電池の充電に使えるエネルギーが取り出せる / Credit:Canva

ここからが、いよいよ量子電池の話です。

前のセクションで、量子の世界では観測の打ち消し方を調節することで、時間の矢を伸ばしたり縮めたり、果ては逆向きにしたりできる、という話をしました。

しかし、それだけなら「時間の矢をいじれる、面白いね」で終わる話です。

研究チームが見つけたのは、その先でした。

時間の矢を縮める操作をしているとき、同時にエネルギーまで取り出せてしまう——つまり、量子電池の充電に使える可能性がある、というのです。

なぜそんなことが起きるのか。

鍵になるのは、「観測するとエネルギーが注ぎ込まれる」という、量子の世界のもう一つの不思議な性質です。

量子の世界では、観測するたびにシステムに小さなエネルギーが入り込んだり、逆に抜き取られたりすることがあります。

今回の設定では、平均的にエネルギーが注ぎ込まれていきます。

普通の状況では、このエネルギーはシステムの中にただ溜まっていくだけで、取り出すのがとても難しい、やっかいなものでした。

ここで、先ほどの「紙と部屋」の話をもう一度思い出してみてください。

机の上に一枚の紙が置かれています。

そして、この部屋にはどこからともなく吹き込んでくる不思議な風があります。

この風は止めることができず、吹くたびに机の上の紙を少しだけ持ち上げようとします。

つまり、風が紙にエネルギーを与えているわけです。

この「風」が、量子の世界でいう観測という行為にあたります。

普通なら、風に持ち上げられた紙は、ふわりと舞い上がってどこかへ飛んでいってしまうか、机の上をあてもなくさまよって、最後にはどこか別の場所に落ち着くだけでしょう。

風が与えたエネルギーは、紙の動きとなって空中に散らばり、誰にも利用されないまま失われてしまいます。

ところがここに、すばしっこい手が登場します。

この手は、風が紙を持ち上げようとした瞬間に、サッと動いて紙を元の位置に押さえ戻します。

そのとき、風が紙に与えようとしていたエネルギーを、手のひらでスッと受け取り、そっとポケットにしまいます。

風は吹き続け、紙は持ち上がろうとし続けます。

そのたびに手が押さえて、エネルギーを受け取り、ポケットに入れていく。

こうして、紙は机の上でまったく動かないのに、ポケットの中にはエネルギーがどんどん溜まっていくという、ちょっと不思議な状況ができあがります。

ここまで読んで、「ん? これって前のセクションで話していた、打ち消しの操作と同じじゃないか」と思った方は、鋭い。

まさにそのとおりです。

先ほどは、観測の効果を打ち消すことで「時間の矢を縮める」話をしました。

今回では、観測の効果を打ち消すことで「エネルギーを回収する」話をしています。

実は、この二つはまったく同じ一つの操作なのです。

打ち消し操作は、時間の矢を縮める働きと、エネルギーを外へ取り出す働きを、同時にやっている。

論文の中でも、著者たちは「これは、フィードバックが時間の矢を縮めている領域で起きる」と述べています。

時間の矢を縮める操作と、エネルギーの回収が、同じコインの表と裏だった——これが今回の研究のいちばんの発見です。

ガルシア=ピントス氏はこう語っています。

「結果として、そこからエネルギーを取り出すことができるのです。観測を、熱力学的な資源として利用する仕組みが実現するわけです」

研究チームが計算で示したのは、この「すばしっこい手」の動かし方の、具体的なレシピでした。

風(観測)がどんなふうにエネルギーを注ぎ込んでくるのかを数式で正確に捉え、それを打ち消すのにちょうどいいタイミングと強さで動く手の作り方を、細かく書き下ろしたのです。

理想的な条件では、観測によって注ぎ込まれたエネルギーをそっくりそのまま別の場所に取り出せることが分かりました。

これは文字通り、量子の世界の「エネルギーの出入力が可能な装置」つまり量子電池を設計したようなものです。

インチキのように見えて、実はインチキではない。

でも「すべての時間が巻き戻る魔法」でもない。

量子の世界だけに許された、小さくてちょっと不思議な裏道です。

「時間を操作できるなら、熱力学の法則が破れているのではないか」——そう疑う人もいるかもしれません。

イギリス・クイーンズ大学のマウロ・パテルノストロ氏は、こう解説しています。

「息子の部屋に入ると、そこは散らかっています。私が片付ければ乱雑さは減りますが、そのためには私がエネルギーを使わなければなりません。ここで示されている仕組みは、まさにそういうことなのです」

つまり、フィードバック操作を行う側がエネルギーを使っており、宇宙全体で見れば熱力学の大原則は守られているというわけです。

もちろん、この仕組みがすぐにスマートフォンの電池に応用されるわけではありません。

いま論文が扱っているのは、量子コンピュータの中で使われるような極めて小さな量子の部品を念頭に置いた理論です。

熱力学第二法則が完全に覆って、割れたコップがエネルギーなしに元に戻るような世界は、やはりやって来ないでしょう。

けれどこの研究によって、量子の片隅では、時間がほんの少しだけその向きを変え、その小さな反転の中から、エネルギーを取り出す手段が見えてきたのです。

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