「DNAはお手本を見ながら作る」という生物の大前提が、細菌の中で破られていた――アミノ酸が文字代わりに
「DNAはお手本を見ながら作る」という生物の大前提が、細菌の中で破られていた――アミノ酸が文字代わりに / Credit:Canva
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「DNAはお手本を見ながら作る」という生物の大前提が、細菌の中で破られていた――アミノ酸が文字代わりに (2/4)

2026.04.21 19:30:32 Tuesday

前ページDNAは「お手本をなぞって」作る、というのが常識だった

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お手本なしで、正確な繰り返しを作る酵素

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Credit:Canva

この酵素が棲んでいるのは、私たちの目には見えない、しかし熾烈な戦いが繰り広げられている世界でした。

にとっての最大の敵は、「ファージ」と呼ばれるウイルスです。

ファージは細菌に取りついて遺伝子を注射のように打ち込み、内側から細菌を乗っ取って自分の仲間を大量生産します。

乗っ取られた細菌は、最後には破裂して死んでしまいます。

細菌たちは何十億年ものあいだ、このファージと命がけの戦いを続けてきました。

そのなかで、実にさまざまな防衛システムを進化させてきたのです。

ちなみに、いま遺伝子編集で話題になっている「CRISPR」も、もとは細菌がファージに対抗するために使っていた免疫システムのひとつでした。

細菌の防衛術は、人間にとってじつは宝の山なのです。

今回ガオ博士たちが調べたのは、「DRT3」という名前の防衛システムでした。

DRT3を持つ細菌を観察していると、奇妙なことが起きていたのです。

細菌の中で、「GT・GT・GT・GT……」という、縞模様のようにリズミカルな繰り返しのDNAが、黙々と作られていました。

しかも、試験管の中で詳しく調べてみると、千文字を超える長いひもまで作り出せることがわかったのです。

これは何のためのDNAなのか。

どうやって作られているのか。

研究チームはこの謎を解くために、DRT3の正体を徹底的に調べていきました。

するとそれはひとつの酵素ではなく、3つの部品が組み合わさったチームだとわかりました。

18個の部品が作る、美しい対称構造の分子マシン
18個の部品が作る、美しい対称構造の分子マシン / Credit: Deng et al., Science, 2026

「Drt3a」と「Drt3b」という2つの酵素と、「ncRNA」という小さなRNAです。

この3種類がそれぞれ6個ずつ、合計18個の部品が集まって、精密時計のような美しい対称構造の「分子マシン」を作っています。

そして2つの酵素は、まったく違う働き方をしていました。

片方のDrt3aは、比較的おとなしい存在でした。

ncRNAの中にある短いお手本区間を何度も使い回して、「GTGTGT…」というひもを紡ぎ出す。

ちょうどスタンプを繰り返し押すようなやり方で、これは教科書のルールの範囲内です。

衝撃は、もう一方のDrt3bでした。

Drt3bは、Drt3aが作るGTひもの相方となる「ACACAC…」というひもを作ります。

当然、研究者たちは「ここにもお手本があるはずだ」と思って、クライオ電子顕微鏡という最先端の機器で、DNAが作られている現場の姿を、原子レベルの精度で捉えました。

ところが、Drt3bのまわりには、お手本になるDNAもRNAも、影も形もなかったのです。

それどころか、よく構造を調べると、本来ならお手本が通るはずの空間そのものが、Drt3b自身の体でふさがれている。

つまりDrt3bには、お手本を置く場所すら存在しなかったのです。

にもかかわらず、Drt3bは「A、C、A、C、A、C……」と、狂いなく交互に文字を並べていく。

これは一体どういうことなのでしょうか。

次ページアミノ酸が「文字のフリ」をしてDNAの鋳型になっていた

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