お手本なしで、正確な繰り返しを作る酵素

この酵素が棲んでいるのは、私たちの目には見えない、しかし熾烈な戦いが繰り広げられている世界でした。
細菌にとっての最大の敵は、「ファージ」と呼ばれるウイルスです。
ファージは細菌に取りついて遺伝子を注射のように打ち込み、内側から細菌を乗っ取って自分の仲間を大量生産します。
乗っ取られた細菌は、最後には破裂して死んでしまいます。
細菌たちは何十億年ものあいだ、このファージと命がけの戦いを続けてきました。
そのなかで、実にさまざまな防衛システムを進化させてきたのです。
ちなみに、いま遺伝子編集で話題になっている「CRISPR」も、もとは細菌がファージに対抗するために使っていた免疫システムのひとつでした。
細菌の防衛術は、人間にとってじつは宝の山なのです。
今回ガオ博士たちが調べたのは、「DRT3」という名前の防衛システムでした。
DRT3を持つ細菌を観察していると、奇妙なことが起きていたのです。
細菌の中で、「GT・GT・GT・GT……」という、縞模様のようにリズミカルな繰り返しのDNAが、黙々と作られていました。
しかも、試験管の中で詳しく調べてみると、千文字を超える長いひもまで作り出せることがわかったのです。
これは何のためのDNAなのか。
どうやって作られているのか。
研究チームはこの謎を解くために、DRT3の正体を徹底的に調べていきました。
するとそれはひとつの酵素ではなく、3つの部品が組み合わさったチームだとわかりました。

「Drt3a」と「Drt3b」という2つの酵素と、「ncRNA」という小さなRNAです。
この3種類がそれぞれ6個ずつ、合計18個の部品が集まって、精密時計のような美しい対称構造の「分子マシン」を作っています。
そして2つの酵素は、まったく違う働き方をしていました。
片方のDrt3aは、比較的おとなしい存在でした。
ncRNAの中にある短いお手本区間を何度も使い回して、「GTGTGT…」というひもを紡ぎ出す。
ちょうどスタンプを繰り返し押すようなやり方で、これは教科書のルールの範囲内です。
衝撃は、もう一方のDrt3bでした。
Drt3bは、Drt3aが作るGTひもの相方となる「ACACAC…」というひもを作ります。
当然、研究者たちは「ここにもお手本があるはずだ」と思って、クライオ電子顕微鏡という最先端の機器で、DNAが作られている現場の姿を、原子レベルの精度で捉えました。
ところが、Drt3bのまわりには、お手本になるDNAもRNAも、影も形もなかったのです。
それどころか、よく構造を調べると、本来ならお手本が通るはずの空間そのものが、Drt3b自身の体でふさがれている。
つまりDrt3bには、お手本を置く場所すら存在しなかったのです。
にもかかわらず、Drt3bは「A、C、A、C、A、C……」と、狂いなく交互に文字を並べていく。
これは一体どういうことなのでしょうか。



























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