なぜ細菌は、こんな変わった仕組みを身につけたのか

では、細菌はいったい何のために、こんな苦労をしてまで「GT・AC」の縞模様ひもを作るのでしょうか。
じつをいうと、この「なぜ」の部分は、まだ完全には解けていません。
ガオ博士自身、正直にそう認めています。
ただ、論文の中で研究者たちは、いくつかの有力な「こうだろう」という仮説を示しています。
いちばん有力視されているのが、「分子スポンジ」仮説です。
ファージが細菌に侵入してくるとき、ファージは自分が増えるために、細菌の中で特定のタンパク質を使います。
そこに、細菌があらかじめ作っておいた「GT・AC」の縞模様ひもが大量にあったらどうなるか。
ファージのタンパク質は、本来の仕事を忘れて、ダミーのひもにくっついて身動きが取れなくなる――そう研究者たちは推測しています。
例えるなら、泥棒が押し入ったときに、本物の金庫の前にニセ金庫を百個並べておくようなもの。
ファージがどれが本物か見分けている間に、時間を稼ぐ戦略です。
もうひとつの仮説は、「自爆スイッチ」のような働きをしているのではないか、という可能性です。
「GT・AC」の繰り返しは、ふつうのDNAとは違う奇妙な形を取りやすく、それが細菌の細胞内で「異常事態発生!」のサインとして認識される可能性があります。
感染した1匹が自ら命を絶つことで、仲間への感染拡大を食い止める――細菌の世界ではおなじみの、集団防衛の発想です。
実際、研究チームがDRT3の攻撃をすり抜けて生き残ったファージを調べたところ、全員が「ST61」という同じ遺伝子に変異を持っていました。
つまりDRT3は、少なくともT1というファージに対しては、ST61というタンパク質を見張っていて、それが現れたときに防衛モードに入る、慎重な見張り番だったのです。
「お手本なしでDNAを作る」という風変わりな技術を進化させるには、想像を絶する時間がかかったはずです。
それでも細菌がこの技を身につけたということは、それだけファージとの戦いが命がけだったことの証拠でもあるのでしょう。
ガオ博士は、こう締めくくっています。
「DRT3は、微生物世界のダークマターを再検討するきっかけと捉えるべきです」。
私たちがまだ知らない、教科書にない仕組みは、細菌の世界にまだまだ眠っているのかもしれません。
CRISPRがそうだったように、今回のDRT3もいつか、人間の技術として花開く日が来るかもしれません。
あなたの足元の土の中、胃の中、台所のスポンジの中にいる、あのちっぽけな細菌たちが、私たちの想像を超える知恵を隠しているのです。



























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