物質と反物質が手を取り合い「1つの波」として揺れていたと判明──100年の空白を埋める世界初観測
物質と反物質が手を取り合い「1つの波」として揺れていたと判明──100年の空白を埋める世界初観測 / Credit:Canva
quantum

物質と反物質が手を取り合い「1つの波」として揺れていたと判明──100年の空白を埋める世界初観測 (2/4)

2026.05.11 21:40:20 Monday

前ページ電子と陽電子は、消える前に“ひとつ”だった

<

1

2

3

4

>

物質と反物質のペアに起きた、奇妙な一体化

物質と反物質のペアに起きた、奇妙な一体化
物質と反物質のペアに起きた、奇妙な一体化 / 回折の実際の映像/Credit: Nagata et al., Nature Communications (2026)

「電子1個と陽電子1個のペア(ポジトロニウム)」を「波として観測する」と一言で言うのは簡単ですが、実験的にはハードルの高い試みです。

まず最大の壁は、ポジトロニウムが電気的に中性であることです。

電子なら電場をかければ加速でき、スリットなりグラフェンなりに向かわせることができます。

しかし電荷がないものは、電場では加速できません。

二重スリットなり結晶なりを先に用意していても、発射できなければ実験は成り立ちません。

そこで研究チームは離れ業を使いました。

ポジトロニウムにもうひとつ電子をくっつけて、全体としてマイナスの電荷を持たせるのです。

マイナスにしてしまえば電場で加速できます。

ただこのままでは観測対象にしたい「電子1個と陽電子1個のペア(ポジトロニウム)」ではありません。

そこで加速し終わったところでレーザーを当てて、余分な電子だけをきれいに剥がすことにしました。

ビームの標的には、炭素原子が規則正しく並んだ極薄のシート「グラフェン」を使いました。

波がこうした規則的な構造を通り抜けると、特定の方向に強め合うパターンが現れます。

原理は二重スリット実験と同じ量子干渉です。

ただし、ここからが本番の苦行でした。

装置の全体図
装置の全体図 / Credit: Nagata et al., Nature Communications (2026)

検出器に届くポジトロニウムは1秒にわずか0.01〜0.02個。

コーヒーを1杯飲んでいる間に、ようやく1個届くペースです。

しかも装置のメンテナンスも過酷でした。

グラフェン表面は数時間ごとにレーザーで汚れを焼く必要があり、レーザー系自体は一晩冷ます必要があり、陽電子を扱いやすい速度に整える装置(モデレーター)も数日ごとに再生が必要──。

こうした作業の合間を縫って観測を続け、エネルギー3.3 keVのビームで210時間、2.3 keVで370時間。

のべ約2年の歳月が費やされました。

そしてついに、膨大なデータの中から小さなピークが浮かび上がりました。

肝心なのは、検出器のビーム中心からどれくらい離れたリング上にピークが強く出ているか、です。

ポジトロニウムビームがグラフェンを通り抜けると、回折信号はビーム軸を取り囲むようなリング状の分布として現れます。

この輪の半径こそが、本研究のすべてを決定づけました。

物質が波として振る舞うとき、質量が重いほど波長は短くなります。

そして波長が短ければ、強め合う輪は中心に近い位置に現れます(逆に波長が長ければ外側に膨らみます)。

もしペアが「ひとつの粒子」として波打つ場合、輪の半径は8.1ミリ。

しかし電子と陽電子がバラバラの粒子として波打っていた場合、輪の半径は倍の16.2ミリに膨らみます。

3.3 keVのビームで観測されたピークの位置は、実測値8.4ミリ。「8.1ミリ」の予測におおむね一致しました。

一方、16.2ミリには目立つピークは見られませんでした。

念のため、ポジトロニウムビームを発射するエネルギーを最初の3.3 keVから2.3 keVに落として、もう一度測定しました。

エネルギーを変えても予測通りの振る舞いが再現されるか、念入りに確かめるためです。

このときの理論予測は、輪の半径が9.7ミリ。

3.3 keVのときの8.1ミリより、少し外側に押し広げられた値です。

そして観測されたピークは10.0ミリ。

誤差の範囲内で一致しました。

エネルギーを変えても、やはり「ペア全体としてひとつの波」として振る舞うという予測が、きれいに再現されたのです。

次ページなぜ物質と反物質が「ひとつの波」になれるのか

<

1

2

3

4

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

量子論のニュースquantum news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!