黒い粒子が「ゴムの本気」を引き出す仕組み

カーボンブラックがなぜゴムを硬くするのか?
それを理解するには、まずゴムの正体と不思議な性質を知らねばなりません。
といっても、ゴムの正体そのものは、じつはとてもシンプルです。
長い分子が無数に絡まり合い、ところどころで結び目をつくった構造――それがゴムです。
だから引っ張れば伸び、手を離せば戻る。
あの心地よい弾力の秘密は、結局のところ、分子の“つながり方”だけにあったわけです。
ところが、このゴムには、性格がまるで違う二つの顔があります。
ひとつは、引っ張る力にはめっぽう甘いこと。
軽い力で、ぐんぐん伸びてくれます。
そして、もうひとつの顔は――「体積を変えろ」、つまり縮めたり膨らませたりしろ、と迫られた瞬間、人が変わったように強情になる点です。
どれだけ強い力で押し縮めても、引きのばして体積を変えようとしても、まるで水のように、かさをほとんど変えないのです。
その差は、なんとおよそ1000倍。
引っ張りには甘いのに、かさを変えることにかけては鉄壁。
同じゴムなのに、まるで別人です。
この性質を知ると、誰もが見慣れた「ゴムが伸びる」という現象すら、違って見えてきます。
輪ゴムを両端を持って引っ張ると、長く伸びますが、それと同時に幅がきゅっと細くなっています。
私たちはふだん、これを「伸びれば細くなるのは当たり前」と素通りしています。
ところが、ゴムの“気持ち”になってみると、まったく別の説明ができるのです。
ゴムは、自分の体積――かさの合計――を、できることなら一切変えたくない。
だから引き伸ばされると、長くなったぶんだけ、きっちり横を細らせて、全体のかさの帳尻を合わせている。
つまり、このゴムが伸びるという現象は「体積を守るために、形だけをやりくりしている」と解釈しなおすことができるのです。
ゴムはただの「伸びる素材」ではなく、体積を守る性質を強く持つ存在という見方です。
さて、まったく同じ問いを、ゴムに混ぜ込まれたカーボンブラックの粒たちにも、ぶつけてみましょう。
粒たちは、ゴムの海の中を、ばらばらに漂っているのではありません。
互いに手を繋ぎ合い、つながり合って、一つの大きな網――いわば、ゴムという体を内側から支える“骨格”をつくっています。
ただし、この骨格は、鉄骨のように硬くて形の決まった枠ではありません。
正体は、無数の小さな粒が、ぎゅうぎゅうに詰まって、互いにかみ合っているだけの集まりです。
そして、この“締まった粒の骨格”には、ひとつ厄介な癖があります。
まわりのゴムごと引き伸ばされると、骨格は静かにその場にいられないのです。
ゴムが伸びはじめると、その動きに引きずられて、粒たちも動かされます。
ところが、これだけ密着していると、横へスッと滑ってよける余地がありません。
動くには、道がたった一つしかない――隣の粒の背中に、よじ登るのです。
一粒が隣に乗り上げると、その足もとと周りには、さっきまでなかったすき間が、ぽっかり空きます。
これが群れのあちこちで一斉に起これば、骨格は内側からじわりと押し広げられ、前よりも大きな場所を占めてしまう。
粒の骨格は、こうして“自分から”ふくらむのです。
ここで、「ゴムだけ」と「ゴムの中に加えられたカーボンブラック粒子」の二人の答えを並べてみてください。
変形したとき「ゴムだけ」の場合は、「できるだけ体積を変えない」と答えます。
しかし「ゴムの中に加えられたカーボンブラック粒子」――つまり粒の骨格は「むしろ、広がる」と答えるのです。
流儀が、真っ向から、正反対です。
しかも厄介なことに、この性格が真逆の二者は、ひとつのゴムの中で、同じ空間を分け合って同居しています。
一枚の毛布を分け合って寝ている二人がいたとして、ゴムは「毛布の面積は絶対に変えたくない」と頑として動かない側。
粒の集団は、寝返り(=変形)のたびに「もっと場所がほしい」と毛布を広げにかかる側。
そんな二人が同居しているのです。
シミュレーションがとらえたのは、そんな2種類の力がせめぎ合う瞬間でした。
引っ張られた結果、ゴムは伸ばされながら、本来は絶対にやりたくない“体積の膨張”を強要されます。
一方で、粒の骨格は引き伸ばされると自分から場所を広げ、同じ体を分け合うゴムを体積膨張に巻き込みます。
その結果、ふだんは眠らせている“体積を守る怪力”を、カーボンブラックが叩き起こします。
ゴムは引っ張られているつもりが、いつのまにか「体積を守る戦い」にすり替えられ、ふだんは眠っている、桁違いに大きな“体積を守る力”を呼び込んでしまう――これこそが、カーボンブラックが混ぜられたゴムに宿る強さの本当の正体でした。
弱いはずの相手に、本人も気づかないうちに必殺技を使わせている――そう言ってもいいでしょう。
黒い粒は、外からゴムを固めていたのではありません。
ゴム自身がずっと奥に眠らせていた体積を変えたくないという怪力を、ちょっとした変形にも引きずり出せるように、土俵をすり替えていたのです。
では、長年の第一容疑者「ガラスの橋」は、まったくの無罪だったのでしょうか。
著者らの答えは、「無罪ではない。ただし主犯ではなく、共犯だ」というものです。
ガラスのように固まった殻は、粒どうしをのり付けして引っ張りに耐える“接着剤”ではありませんでした。
シミュレーションから見えてきた本当の役どころは、粒の骨組みが押しつぶされないよう、下から踏ん張らせる“裏方”だったのです。
その支えが体積の綱引きを材料に有利なほうへ傾けるので、ねばつきの強い粒ほどよく効いて見えただけ。
しかも内訳を調べると、ガラスの橋が「引っ張りに耐えている分」は、ゴムが実際に伸びる領域(伸び2%を超えたあたり)では、多くの場合むしろマイナスにすらなっていました。
いちばん怪しいとされた容疑者が、“伸びに耐える”役としては現場で足を引っ張る側――見事な濡れ衣です。
とはいえ、その“粘着”は次に見る“増幅役”として、正味ではきちんとゴムを強くしています。
研究チームは、これまで原因と信じられてきた「束縛ゴム」や「ガラスの橋」といった効果を、強さを底上げする“増幅役”ではあっても、原因そのものではない、と結論しています。
そのうえで、長年バラバラに語られてきた複数の説を、「ゴムと粒の、体積をめぐる綱引き」という一本の原理で、きれいに束ね直してみせました。
100年ぶりに、容疑者たちの関係図が、ようやくすっきり描き直されたのです。





































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