人間の医療のヒントになるかもしれない

最後に、この発見が私たち人間にどう関わってくるかの話です。
人間の脳は、酸素がなくなるとせいぜい1分しか持ちません。
脳の血流が止まる脳卒中が、ひと度起これば命に関わる深刻な病気である理由は、まさにここにあります。
そんな私たちから見て、鳥の網膜は驚くべき存在です。
人間の脳が1分で機能を失う状況を、生涯ずっと、正常な状態で乗り越えているのです。
「酸素がない状態でも組織が壊れない方法」を、自然はすでに何百万年もかけて発明していたわけです。
ニエンガード博士はこう語ります。
「自然は、人間を病気にさせる『鳥類の生理学的問題』を、すでに解決してくれていたのです。この進化的な解決策を理解することで、酸素欠乏のもとで組織が機能不全に陥る理由や、そうした病気の治療法について、新たな考え方が生まれることを期待しています」
ただし、いますぐ脳卒中の薬ができる、という話ではありません。
基礎研究から実際の治療応用まで、おそらく数十年単位の道のりが必要でしょう。
それでも、自然界には私たちがまだ気づいていない「解答例」がたくさん眠っていることを、この研究は教えてくれます。
常識として「神経組織は酸素なしでは死ぬ」と思い込んでいたところに、進化はとっくにその常識を破る答えを用意していたわけです。
ダムスガード博士は最後にこう語っています。
「私たちにはできないことを成し遂げているこれらの動物たちから、学ぶべきことはたくさんあります」
夜空を渡っていく渡り鳥たちの目のなかでは、今この瞬間も、恐竜の時代から受け継がれてきた仕組みが、静かに動き続けているのかもしれません。






































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