犬の脳では「恐怖」が他のネガティブ表情と違っていた
まず研究者たちは、実験1で幸福な顔に強く反応した領域の活動パターンを使い、犬がどの表情を見ているかを機械学習で判別しました。
すると「幸福と悲しみ」「幸福と怒り」「幸福と恐怖」では、いずれも偶然より高い精度で判別できました。
一方、この領域だけでは「悲しみと怒り」「悲しみと恐怖」「怒りと恐怖」といったネガティブな表情同士を区別できませんでした。
つまり、この側頭皮質から尾状核などに広がるネットワークは、人間の顔全般というより、幸福な顔に対して特徴的な反応を示していると考えられます。
そこで研究者たちは次に、特定の領域に限定せず、脳全体の活動パターンを比較しました。
すると今度は、「悲しみと恐怖」「怒りと恐怖」のそれぞれで異なる脳活動パターンが見つかりました。
一方、「悲しみと怒り」については、はっきりした違いは確認されませんでした。
つまり今回分かったのは、犬の脳がネガティブな人間の表情をすべて同じものとして処理しているわけではなく、とくに「恐怖」の顔に対して、悲しみや怒りとは異なる脳活動パターンを示したということです。
しかも研究チームは、写真の明るさや色、単純な形の違いなどが結果を生んだ可能性も検討しており、そうした基本的な画像の特徴だけでは今回の違いを説明できないことも確認しています。
では、なぜ「恐怖」が目立ったのでしょうか。
研究者らは、恐怖が犬にとって行動上重要な情報である可能性を挙げています。
先行研究では、犬は人間の恐怖顔と怒り顔に異なる注意の向け方を示し、恐怖や怒りのような表情は、悲しみより強い生理的反応を引き起こすことも報告されています。
そのため恐怖は、人間の周囲で何か注意すべきことが起きていることを知らせる手がかりとして、犬の脳で特徴的に処理されている可能性があります。
とはいえ、今回の研究にはいくつかの限界があります。
実験2は12頭と小規模で、そのうち8頭がボーダーコリーでした。
さらに使われたのは静止した顔写真であり、日常生活で犬が利用している声や体の動き、匂いなどは含まれていません。
それでもこれらの結果は、犬の脳における人間の表情の表現が、単純な「ポジティブ/ネガティブ」の区別だけではないことを示す重要な手がかりとなります。

































