魚のタンパク質を「のり」にして、繊維を氷につなぐ

研究チームが「のり」に選んだのは、魚が持つ、氷にくっつくタンパク質です。
遺伝子を組み換えて、炭水化物(セルロースもこの仲間)にもくっつく部品を付け足しました。
氷にも繊維にも、両方にくっつく。
このタンパク質を、セルロースのナノ粒子(目に見えないほど細かい粒)を散らした液に混ぜ、凍らせました。
すると、氷の中にしなやかな分子の骨組みができ、引っ張ったときの強さが大きく上がりました。
研究を率いた生化学者、イド・ブラスラフスキー氏の言葉です。
「繊維を氷に混ぜるだけで終わらせず、材料同士が分子のレベルでどうつながるかを操りたかったのです」
変わったのは、強さだけではありません。
急に砕ける代わりに、ずっと多くのエネルギーを受け止めながら、少しずつ形を変えるようになりました。
円柱の試験片で測ったのが、冒頭の70倍という数字です。
この結果は、有望な概念実証(考えが成り立つことを示す実験)と位置づけられています。
北極や南極で使う材料の候補として、評価する価値があるとされています。
持続可能な建材が求められる中で、氷を建材にする考えへの関心も再び高まっています。
ナゾロジーでは以前、廃コンクリートと二酸化炭素から新しい建材を作る研究を紹介しました(廃コンクリートとCO2でつくる新しい建材が開発される)。
ただし、この試験は実験室で作った円柱の試験片で行われたものです。
極地の建物に使えるかどうかは、これから評価する段階です。
のりのタンパク質を作るのは、遺伝子を組み換えた細菌。
試験片の分なら足りても、小さな建物ひとつ分となると、二酸化炭素を出さずに細菌を育てる大きな設備が要ります。
一方で言えるのは、繊維をただ混ぜるのではなく分子のつながりを設計すれば、氷の強さと壊れ方を変えられるということです。
「氷は割れやすい」という当たり前が、繊維のつなぎ方ひとつで変わりうると、小さな円柱が示しました。
氷山を空母にする話は立ち消えましたが、氷を建材にする話は、まだ凍り付いてはいないようです。
























