「隙間好き」を育てたのは、池の泥だった

池のアメーバが、なぜこれほど狭い道に強いのでしょうか。
手がかりは、アメーバの体の中よりも、まわりにありました。
通路の中のネグレリアは、たしかに動き方を変えていました。
平らなガラスの上では、体の縁を薄く平たく広げる突起(葉状仮足)と、丸い膨らみの2通りを使い分けて這います。
ところが通路の中では、どの細胞も、体の表面を内側からぷくっと押し出す丸い膨らみ(ブレブ)だけで進んでいました。
この切り替えこそが仕掛けに見えますが、ブレブで這うほうが速いとは限らないことが、ほかの細胞を調べたこれまでの研究で示されています。
研究チームが目を向けるのは、むしろアメーバを締めつけている通路の壁です。
平らな場所では、体のあちこちから突起が伸び、そのたびに進む向きがぶれます。
細い通路の中では、横へ伸びようとする突起が壁にふさがれ、前を向いた突起が伸びやすくなります。
研究チームは、壁が行く手をはばむどころか寄り道を封じてアメーバを前へ向かわせ、速さとまっすぐさの少なくとも一部を生んでいるとみています。
では、そもそもなぜネグレリアは、狭い道に自分から入りたがるのでしょうか。
答えの鍵は、ふだんの住みかである池や湖の底にあります。
そこには細かな泥の粒が降り積もり、粒と粒のあいだに細い隙間が入り組んでいます。
餌になる細菌は、そうした隙間にも潜んでいます。
それを食べるためには、泥の粒のあいだを探り回り、隙間を見つけたら迷わず入り、入ったら引き返さずに奥へ進む必要があります。
研究チームは、この動きが、泥の隙間に潜む細菌を探し当てるために磨かれてきた行動だと考えています。
隙間好きが池の暮らしから来ているのなら、泥の中でも自分から入り込むはずです。
そこで研究チームは、池の泥に見立てた「透明な泥」でも確かめました。
本物の泥では中が見えないため、泥の粒とほぼ同じ大きさ(約5マイクロメートル)の透明なゲル(カーボポール)の粒を敷き詰めたのです。
ゲルの上に置いたネグレリアは4分の3以上が中へ潜り込み、ゲルの下に置いたものも6割以上が上へ向かって這い上がっていきました。
重さで沈んだのではなく、自分から隙間へ入っていったのです。
そして人の鼻の奥にも、細い隙間が続く道があります。
においを伝える神経の繊維が束になり、骨の板の小さな穴を抜けて、脳へと続いている道です。
研究チームは、池の泥で細菌を探すための動きが、そのままこの道のりに当てはまると考えています。
鼻に入ったアメーバは、まず鼻の奥の空間を探り回ります。
やがて神経の繊維のあいだに隙間を見つけると、ためらわず中へ入ります。
そしていったん入れば、ほとんど引き返さずに神経に沿って進み、骨の穴を抜けて、脳まで素早くたどり着いてしまう、というわけです。
池の泥なら、隙間の先にいるのは餌の細菌です。
鼻の奥では、隙間の先にあるのが脳でした。
「アメーバが鼻の奥に入り込んでしまうのは、本当にただの不運な巡り合わせです。彼らは進化してきたとおりのことをしているだけ。細菌がいるはずの隙間を探しているのです」とヴェル氏は話しています。
この見立てどおりなら、池の泥で細菌を探すときの、いつもの習性が、鼻から脳に至る神経に行き当たったときに「ハマって」しまい、致死的な結果が生まれていたことになります。
もっとも、今回の隙間好きは、病気を起こさない近縁種で確かめられたものです。
ヴェル氏によれば、人の体温に耐えられるかどうかや、人の組織に入り込むのを助ける酵素など、病気を起こすかどうかを分ける違いはほかにもありうるといいます。
隙間好きだけで、感染が決まるわけではないのです。
それでも、ヴェル氏の研究室の予備的なデータでは、脳を食べるアメーバ自身も隙間好きの傾向を示しているといい、チームはこれを詳しく調べる計画です。
このアメーバだけを狙い撃ちにする薬はまだなく、病原体の基本的な暮らしぶりを知ることが、その開発への道を開く可能性があると報じられています。






















