平均をやめると見えてきた「脳の道筋」
ふつうの脳画像研究では、2種類の「平均」をとります。
ひとつは時間の平均です。たとえば8分間のスキャンに含まれる数百枚の脳画像を、「2つの領域の活動がどれだけそろっていたか」を表す1つの数字にまとめます。
もうひとつは人の平均で、個人差はならせば消えるノイズだとみなし、参加者全員の数字を1つにまとめます。
しかし時間で平均してしまうと、短いあいだだけ現れては消える整った構造を見逃すおそれがあります。
踊る人を長時間露光で撮るとぼやけた影にしかなりませんが、コマ送りで見れば振り付けが分かるのと似ています。
そこでチームは、332の脳領域の刻一刻の活動を、「CEBRA」という機械学習のツールに入力しました。
CEBRAは出来事の順番を保ったままデータを本質的な構造へと圧縮し、一人ひとりについて、3次元の空間を進む「道筋」を描き出します。
スキャンの一瞬一瞬が1つの点になり、その点の連なりが脳の動きを表すわけです。

すると、シロシビンのもとでの脳活動は、でたらめに散らばるのではなく、場面に応じた構造のあるパターンへと組み直されていたことが分かりました。
道筋には、安静・瞑想・音楽・映像というその時の場面と、本人が味わっていた体験の質の両方が映し出されていました。
6人の参加者を詳しく調べた解析では、道筋だけを手がかりにその瞬間がどの場面なのかを機械に言い当てさせたときの精度が、薬なしの回の約62%から、シロシビンのもとでは約98%まで上がっていました。

ふだんは内側の処理と外側の処理を分けている脳のネットワークがまとまって統合され、脳の動きをその場の状況にそろえていたのです。
この「状況へのそろい方」は、自己や境界が溶ける感覚を心地よいものとして報告した参加者で、はっきりとまとまった道筋として現れました。
反対に、薬の効き始めが遅れ、MRIのスキャンのあいだはほとんど何も感じなかった参加者が1人いましたが、その人の道筋は薬なしの回とよく似ていました。
研究チームは、周りの環境から切り離されているのではなく、ひと続きであると感じるこの体験を「エンベデッドネス(embeddedness)」と呼んでいます。
さらに、このそろい方の強さは、翌日の考え方(マインドセット)の変化とも関連していました。
こうした整った姿は、時間で平均する従来の指標では見逃されていたものです。
実際、従来の指標である「モジュール性」からは、神秘的な体験の強さも、翌日の考え方の変化も予測できませんでした。
ただし今回示されたのは、脳活動のまとまりと体験のまとまりが連れ立って変わるという関係であり、一方がもう一方を引き起こすと確かめられたわけではありません。
また、対象は健康な成人で、参加者も研究者も薬を飲んだことを知ったうえで行われた試験でした。
当日は研究の医師や訓練を受けたスタッフが付き添い、研究は大学の倫理委員会の承認を受けています。
目を閉じて音楽を聴いていたあの脳は、ばらばらに散らかっていたのではなく、音楽という場面ならではのひとすじの道を描いていたのかもしれません。
「混乱」に見えるものも、平均という眼鏡を外してみれば、その人だけの整った軌跡なのかもしれないのです。
筆者の散らかった机にも秩序があると言い張りたいところですが、こちらはコマ送りで見ても散らかったままでした。
ここからは、シロシビンをもっと知りたい人へ
シロシビンとは、一部のキノコに含まれていて、体に入ると幻覚を起こす成分です
シロシビンは幻覚を起こす成分で、体に入るとシロシンという別の物質に変わります。
このシロシンが、セロトニンという脳内物質を受け止める場所に結びついて、そこを刺激します。
体への毒性は低く、呼吸の異常や心臓発作のような命に関わる事態は起こりにくいとされています。
ただし、幻覚が続くあいだに、強い恐怖や不安、パニックにおちいる人もいます。
また、この成分を含むキノコ(マジックマッシュルーム)を食べた2週間〜4か月後に、飲酒やストレス、睡眠不足などをきっかけに幻覚などの症状がぶり返すこともあります。
人とのかかわりは古く、中央アメリカの先住民が紀元前3000年ごろには、シロシビンを含むキノコを癒やしや霊的な儀式に使っていた証拠があります。
いまは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や依存症、痛みなどの治療に役立つ可能性に、あらためて関心が集まっています。





普段の脳の動きも同じように時間平均取らないで見てみたら新しい発見あるのかな。