中身はカイロの鉄粉より細かい粒に変わっていた

白鉄鉱は、はじめから白鉄鉱としてできたものだったのか?
研究チームは、燃えた2個から取り分けてあった試料を、顕微鏡やX線で細かく調べました。
見えてきたのは、「白鉄鉱」という名前からは想像のつかない生い立ちと中身でした。
鉱物は、できるときの条件に応じて、決まった形に育ちます。
燃えた石の白鉄鉱は、細長い板が折り重なった形をしていました。
ところがこの板の形は、もともと白鉄鉱のものではありません。
磁硫鉄鉱(ピロータイト)という、白鉄鉱とは別の種類の硫化鉄が作る形です。
エスカナバ・トラフで最初にできる鉄の硫化鉱物は磁硫鉄鉱で、そこから白鉄鉱に置き換わったものが、今回の石でした。
外から見える板の形は磁硫鉄鉱のまま残し、中身だけが入れ替わっていたのです。
問題は、その入れ替わり方でした。
板を1枚ずつ輪切りにして見ると、中心に近づくほど割れ目とすき間が増えていきます。
結晶ひとつの大きさは、5〜16ナノメートル。
髪の毛の太さのおよそ1万分の1という小さな結晶が、すき間を抱えたまま寄り集まっている状態です。
石の中身は、カイロの鉄粉よりはるかに細かい粒の集まりだったことになります。
外から見れば1個の硬い石でも、酸素と向かい合う面は、けた違いに広がっていたのです。
鉱物は時間とともに姿を変え、結晶は大きく整い、落ち着いた状態へ向かっていきます。
変化し終えた鉱物ほど反応しにくい、というのが鉱物の世界の定番の見方です。
ところがこの石では、変化した後のほうが、変化する前より不安定になっていました。
鉱物が変われば落ち着くとはかぎらないことを、この2個の石が示したと論文は述べています。
やっかいなのは、外からは区別がつかないことです。
板の形は磁硫鉄鉱のままなので、見た目で鉱物を判定するかぎり、中身が入れ替わっていることに気づけません。
論文は、こうして別の鉱物の姿に隠れた白鉄鉱を、「ステルス白鉄鉱」という言葉で表しています。
これまで磁硫鉄鉱は、不安定で危ない鉱物の代表として名指しされてきました。
しかしそう報告されてきた石の中にも、実はステルス白鉄鉱が混じっていたのではないか、と研究者たちは問いかけています。
白鉄鉱の石が採れたのは、熱水がもう止んだ場所か、ぬるい水しか出ていない場所でした。
こんな不安定な石が海底で何事もなく横たわっていられたのは、冷たく酸素の乏しい深海が、反応を先延ばしにしていたからだと研究チームは見ています。
長く海底にあったことは、陸でも扱いやすいことの保証にはなりません。
割る、砕く、すりつぶすといった力は、そのひと押しとなるエネルギーを石に与えます。
新しい割れ目が現れた瞬間に熱と煙が出始めたことは、この見方と一致すると論文は述べています。




