「世界初」宙に浮くダイヤを「量子の力」で揺らすことに成功
「世界初」宙に浮くダイヤを「量子の力」で揺らすことに成功 / 実験装置の下半分を撮影した写真です。炭素繊維の棒で磁石の上に吊り下げられたダイヤモンドに緑色のレーザーが当たり、ダイヤが赤く光っています。 Credit: カサンドラ・ジョージ(OIST)(OIST のプレスリリースより)
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「世界初」宙に浮くダイヤを「量子の力」で揺らすことに成功 (2/3)

2026.10.19 18:00:00 Monday

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浮かぶダイヤに緑の光を点滅させると…

チームの装置は、磁石の上に浮かぶ板から、ダイヤモンドを吊り下げた形をしています。

実験装置のつくりを横から見た図です。浮いた黒鉛の板から炭素の棒がのび、その先のダイヤモンドが、下に置いた別の磁石の真上に吊り下がっています。縮尺は正確ではありません。
実験装置のつくりを横から見た図です。浮いた黒鉛の板から炭素の棒がのび、その先のダイヤモンドが、下に置いた別の磁石の真上に吊り下がっています。縮尺は正確ではありません。Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

浮いているのは、1cm角で厚さ1mmの黒鉛(グラファイト)の板です。

板の下には、4個の強力な磁石が市松模様に並んでいます。

板の中央からは、長さ5cm、太さ0.5mmの炭素の棒が下へのびています。

棒は磁気をさえぎる鉄板の穴を抜け、その先に3mm角のダイヤモンドが付いています。

使ったダイヤモンドは特注品ではなく、光学部品メーカーが売っている市販品でした。

ダイヤの真下には、もう1つ別の磁石が置かれています。

このダイヤには、窒素原子と炭素の抜けた穴が並んだ「欠陥」(NV中心)が、4.5ppm(100万分の4.5)の濃さで含まれています。

NV中心のつくりを表した図で、青が炭素の原子、赤が炭素1つの代わりに入った窒素の原子、黄色が原子の抜けた穴を表しています。この赤い窒素と黄色い穴の組み合わせが、NV中心です。
NV中心のつくりを表した図で、青が炭素の原子、赤が炭素1つの代わりに入った窒素の原子、黄色が原子の抜けた穴を表しています。この赤い窒素と黄色い穴の組み合わせが、NV中心です。Credit: Stacylee14 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

欠陥には相手のいない電子があり、そのスピンが小さな磁石としてはたらきます。

板と棒とダイヤを合わせた重さは128mgです。

この装置は、上下に1秒間に約18回(17.6Hz)のリズムで揺れやすい性質を持っています。

揺れは、黒鉛の板に貼った小さな鏡に光を当てて測りました。

測る装置そのものは1兆分の1メートルの細かさまで見分けられますが、実際の測定では、部屋の振動による約1nmの雑音が残りました。

実験では、まず緑色のレーザーをダイヤに当てて、電子のスピンの向きの割合を一方へ偏らせます。

実験装置の下半分を写した写真で、緑色のレーザーを当てたダイヤモンドが赤く光っています。この光で、電子のスピンの向きの割合を一方へ偏らせます。
実験装置の下半分を写した写真で、緑色のレーザーを当てたダイヤモンドが赤く光っています。この光で、電子のスピンの向きの割合を一方へ偏らせます。Credit: カサンドラ・ジョージ(OIST)(OIST のプレスリリースより)

光を止めると、スピンは周りの熱で決まる元の状態へ戻っていきます。

スピンの状態が切り替わると、ダイヤが下の磁石から受ける力も変わります。

そこで、装置の揺れやすいリズムに合わせて光を点滅させ、ブランコを押すように力をくり返し加えました。

緑色のレーザーの点滅(上)と、装置の上下の揺れ(下)の関係を表した図です。光が当たっている間に装置は磁石の側へ動き、これを揺れやすいリズムに合わせて、ブランコを押すようにくり返します。波の形と大きさは模式的なものです。
緑色のレーザーの点滅(上)と、装置の上下の揺れ(下)の関係を表した図です。光が当たっている間に装置は磁石の側へ動き、これを揺れやすいリズムに合わせて、ブランコを押すようにくり返します。波の形と大きさは模式的なものです。Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

すると装置は、空気中でおよそ100nmの幅で揺れ始めました。

100nmは1mmの1万分の1で、熱でひとりでに生じるナノメートル程度の揺らぎを大きく上回ります。

揺れの記録を1回の揺れごとに区切って重ねても、きれいな波の形が残りました。

つまり装置は、でたらめに震えたのではなく、光の点滅に歩調を合わせて揺れていたのです。

また、光が当たっている間は装置が磁石の側へ動き、理論の予想どおり引き合う力だと分かりました。

スピンの状態はすべてが切り替わったわけではなく、ごく一部が変わっただけでしたが、それでも5ナノニュートン(1ナノニュートンは10億分の1ニュートン)を超える力が生まれていました。

では、この揺れは本当にスピンの力によるものなのでしょうか。

チームは、ダイヤの下の磁石を外した状態でも、緑色の光を点滅させてみました。

ダイヤモンドの中のNV中心を1つずつ、量子技術に使うためにレーザーで操る装置です(ギャビン・モーリーさんの研究室)。別の研究室の装置で今回の実験のものではありませんが、レーザーでNV中心の状態を切り替える点は今回の実験と共通しています。
ダイヤモンドの中のNV中心を1つずつ、量子技術に使うためにレーザーで操る装置です(ギャビン・モーリーさんの研究室)。別の研究室の装置で今回の実験のものではありませんが、レーザーでNV中心の状態を切り替える点は今回の実験と共通しています。Credit: Gavin Morley / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

さらに磁石を残したまま、スピンをそろえられない赤外線のレーザーにも替えてみました。

揺れの強さをリズムごとに分けて見ると、磁石と緑色の光がそろったときだけ、鋭い山が現れました。

揺れの強さをリズムごとに分けて見た結果を、3つの条件で比べた図です。磁石と緑色の光がそろった左だけに鋭い山が立ち、磁石を外したときや赤外線に替えたときは消えます。実際の山の高さは熱による揺らぎの約1万倍で、縮尺は正確ではありません。
揺れの強さをリズムごとに分けて見た結果を、3つの条件で比べた図です。磁石と緑色の光がそろった左だけに鋭い山が立ち、磁石を外したときや赤外線に替えたときは消えます。実際の山の高さは熱による揺らぎの約1万倍で、縮尺は正確ではありません。Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

その山の高さは、熱による揺らぎの約1万倍です。

磁石を外したときや赤外線に替えたときには、この山は消えてしまいました。

装置を押していたのは光の熱や光そのものではなく、スピンの状態による磁気の力だったのです。

さらに、空気の抵抗を減らせる真空の中では、揺れ幅はおよそ1.5μm(1mmの1000分の1.5)まで大きくなりました。

チームは、真空の中で黒鉛の板を、複合材料でできた反磁性の板に替えれば、熱によるわずかなスピンの偏りだけでも、揺れ幅を100μmほどにできると見込んでいます。

磁石の力で小さな磁石を浮かせ、上や下にずれないよう、2つのビスマスのかけらで囲んで反磁性の性質で安定させた実験です。今回の研究とは別の実験ですが、チームが黒鉛の代わりに使おうと考えている板も、反磁性の材料です。
磁石の力で小さな磁石を浮かせ、上や下にずれないよう、2つのビスマスのかけらで囲んで反磁性の性質で安定させた実験です。今回の研究とは別の実験ですが、チームが黒鉛の代わりに使おうと考えている板も、反磁性の材料です。Credit: Darsie42 / Wikimedia Commons(CC0)

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