浮かぶダイヤに緑の光を点滅させると…
チームの装置は、磁石の上に浮かぶ板から、ダイヤモンドを吊り下げた形をしています。

浮いているのは、1cm角で厚さ1mmの黒鉛(グラファイト)の板です。
板の下には、4個の強力な磁石が市松模様に並んでいます。
板の中央からは、長さ5cm、太さ0.5mmの炭素の棒が下へのびています。
棒は磁気をさえぎる鉄板の穴を抜け、その先に3mm角のダイヤモンドが付いています。
使ったダイヤモンドは特注品ではなく、光学部品メーカーが売っている市販品でした。
ダイヤの真下には、もう1つ別の磁石が置かれています。
このダイヤには、窒素原子と炭素の抜けた穴が並んだ「欠陥」(NV中心)が、4.5ppm(100万分の4.5)の濃さで含まれています。

欠陥には相手のいない電子があり、そのスピンが小さな磁石としてはたらきます。
板と棒とダイヤを合わせた重さは128mgです。
この装置は、上下に1秒間に約18回(17.6Hz)のリズムで揺れやすい性質を持っています。
揺れは、黒鉛の板に貼った小さな鏡に光を当てて測りました。
測る装置そのものは1兆分の1メートルの細かさまで見分けられますが、実際の測定では、部屋の振動による約1nmの雑音が残りました。
実験では、まず緑色のレーザーをダイヤに当てて、電子のスピンの向きの割合を一方へ偏らせます。

光を止めると、スピンは周りの熱で決まる元の状態へ戻っていきます。
スピンの状態が切り替わると、ダイヤが下の磁石から受ける力も変わります。
そこで、装置の揺れやすいリズムに合わせて光を点滅させ、ブランコを押すように力をくり返し加えました。

すると装置は、空気中でおよそ100nmの幅で揺れ始めました。
100nmは1mmの1万分の1で、熱でひとりでに生じるナノメートル程度の揺らぎを大きく上回ります。
揺れの記録を1回の揺れごとに区切って重ねても、きれいな波の形が残りました。
つまり装置は、でたらめに震えたのではなく、光の点滅に歩調を合わせて揺れていたのです。
また、光が当たっている間は装置が磁石の側へ動き、理論の予想どおり引き合う力だと分かりました。
スピンの状態はすべてが切り替わったわけではなく、ごく一部が変わっただけでしたが、それでも5ナノニュートン(1ナノニュートンは10億分の1ニュートン)を超える力が生まれていました。
では、この揺れは本当にスピンの力によるものなのでしょうか。
チームは、ダイヤの下の磁石を外した状態でも、緑色の光を点滅させてみました。

さらに磁石を残したまま、スピンをそろえられない赤外線のレーザーにも替えてみました。
揺れの強さをリズムごとに分けて見ると、磁石と緑色の光がそろったときだけ、鋭い山が現れました。

その山の高さは、熱による揺らぎの約1万倍です。
磁石を外したときや赤外線に替えたときには、この山は消えてしまいました。
装置を押していたのは光の熱や光そのものではなく、スピンの状態による磁気の力だったのです。
さらに、空気の抵抗を減らせる真空の中では、揺れ幅はおよそ1.5μm(1mmの1000分の1.5)まで大きくなりました。
チームは、真空の中で黒鉛の板を、複合材料でできた反磁性の板に替えれば、熱によるわずかなスピンの偏りだけでも、揺れ幅を100μmほどにできると見込んでいます。





