「世界初」宙に浮くダイヤを「量子の力」で揺らすことに成功
「世界初」宙に浮くダイヤを「量子の力」で揺らすことに成功 / 実験装置の下半分を撮影した写真です。炭素繊維の棒で磁石の上に吊り下げられたダイヤモンドに緑色のレーザーが当たり、ダイヤが赤く光っています。 Credit: カサンドラ・ジョージ(OIST)(OIST のプレスリリースより)
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「世界初」宙に浮くダイヤを「量子の力」で揺らすことに成功

2026.10.19 18:00:00 Monday

私たちの身の回りには、量子力学のおかげで成り立っている技術がたくさんあります。

レーザーやMRI、半導体、量子コンピューターも、その仲間です。

ところが、量子力学の不思議な予言を大きな物体で確かめるのは、とても難しいことです。

熱や振動といった周りの乱れが、繊細な量子のふるまいをかき消してしまうからです。

アインシュタインも晩年まで量子力学の土台に向き合いましたが、量子力学と重力の関係は今も解けていません。

では、ダイヤモンドの中にある目に見えない電子の力で、宙に浮いたセンチ大の物体を動かすことはできるのでしょうか。

研究の詳細は、日本の沖縄科学技術大学院大学(OIST)らにより、2026年10月7日付で学術誌『Science Advances』に掲載されました。

A Quantum Breakthrough Inside a Diamond Could Help Solve One of Einstein’s Greatest Mysteries (SciTechDaily) https://scitechdaily.com/a-quantum-breakthrough-inside-a-diamond-could-help-solve-one-of-einsteins-greatest-mysteries/ 沖縄科学技術大学院大学(OIST) ニュース(2026年10月8日) https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2026/10/8/first-observation-quantum-spins-shifting-centimeter-scale-object-lab 産業技術総合研究所 プレスリリース(2019年8月28日) https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2019/pr20190828/pr20190828.html 産業技術総合研究所 プレスリリース(2021年1月12日) https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2021/pr20210112/pr20210112.html 文部科学省「量子ビームの図鑑」解説(量子科学技術研究開発機構) https://www.mext.go.jp/stw/common/pdf/series/quantum/about.pdf
Spin force from a nitrogen-vacancy ensemble drives a 100-mg levitated resonator https://doi.org/10.1126/sciadv.aeh0566
この研究の概要
発表
2026年10月7日に、科学誌『Science Advances』に論文が掲載されました。
研究チーム
沖縄科学技術大学院大学(OIST)量子マシンユニットのジェイソン・トゥワムリー教授と、博士課程の学生のアンシュマン・ナヤクさん、キム・デヒさんらによる4人のチームです。
調べた対象
「NV中心」というダイヤモンドの中の欠陥をたくさん含むダイヤを、磁石の上に浮かぶ黒鉛の板から吊り下げた、重さ128mgの装置です。
調べ方
緑色のレーザーを、装置が揺れやすいリズム(1秒に約18回)に合わせて点滅させ、NV中心の電子のスピン(小さな磁石のような性質)の状態をくり返し切り替えて、装置の揺れを光で測りました。比べるために、ダイヤの下の磁石を外した場合と、スピンをそろえられない赤外線のレーザーに替えた場合も試しました。
分かったこと
装置は光の点滅に歩調を合わせて揺れ、真空の中では揺れ幅がおよそ1.5μmになりました。磁石を外したり赤外線に替えたりすると大きな揺れは消え、装置を動かしていたのは光の熱などではなく、スピンの状態による磁気の力だと確かめられました。
まだ分かっていないこと
装置を量子の重ね合わせ(いくつもの場所に同時にある状態)にすることはまだできておらず、本当に量子的な揺れをつくるのが次の課題です。その先にある、重力が量子のルールに従うのかという問いも、まだ確かめられていません。

量子力学は、原子や電子のような、目に見えないほど小さな世界のルールを説明する物理学です。

この小さな世界は、私たちのまわりの物の世界から見ると、とても不思議な世界です。

たとえば、電子や光は「粒」のようにも「波」のようにもふるまいます。

また量子力学では、1つの物が、いくつもの状態が重なった「重ね合わせ」の状態にあると考えます。

ところが、それを調べる(観測する)と、そのうちのどれか1つに決まって見えます。

物が同時にいくつもの場所にある「位置の重ね合わせ」は、これまでとても小さな物でしか確かめられていません。

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原子の世界で見えていた「スピンの力」

量子の不思議を大きな物体で確かめる手がかりは、100年ほど前の実験にあります。

電子のような小さな粒は、それぞれが小さな磁石のような性質を持っていて、これを「スピン」と呼びます。

磁場の強さが場所によって違う所では、スピンの状態によって、粒が受ける力が変わります。

この力を使った研究の出発点が、1921〜1922年のシュテルン=ゲルラッハ実験です。

ただし、このスピンの力を原子より大きな物体で観察するのは、これまで難しいことでした。

シュテルン=ゲルラッハ実験を、光を使ってまねた実験です。量子力学の土台となる考えを確かめるためのもので、1921〜1922年に行われた元の実験とは別のものです。
シュテルン=ゲルラッハ実験を、光を使ってまねた実験です。量子力学の土台となる考えを確かめるためのもので、1921〜1922年に行われた元の実験とは別のものです。Credit: BW8EJXH1nq / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

量子力学が数十ナノメートルより大きな物体でも成り立つのかを調べる試みは、これまでに数多く行われてきました。

しかし、OIST(沖縄科学技術大学院大学)のジェイソン・トゥワムリー教授によると、まだ成功した例はありません。

チームが最終的にめざすのは、重力が量子のルールに従うのかを確かめることです。

そのためには、十分に重い物体を「いくつもの場所に同時にある」状態(重ね合わせ)にしなければなりません。

こうした位置の重ね合わせはミクロな物体でしか実現しておらず、そこでは重力の影響がきわめて弱いのです。

そこで多くの研究者は、ごく小さな物体を浮かせ、少しずつ重くしていく道を選んできました。

一方でOISTのチームは、まず大きな物体を浮かせてから量子の細かな制御へ進む、「大から小へ」の作戦をとっています。

筆頭著者のアンシュマン・ナヤクさんが使うのは、磁石の上に物体を浮かせる「反磁性浮上」という仕組みです。

3つ重ねた円形の磁石の上に浮かぶ、黒いグラファイト(黒鉛)の円盤です。同じ OIST が別の研究で発表した、電源のいらない浮遊台です。
3つ重ねた円形の磁石の上に浮かぶ、黒いグラファイト(黒鉛)の円盤です。同じ OIST が別の研究で発表した、電源のいらない浮遊台です。Credit: 沖縄科学技術大学院大学(OIST)(沖縄科学技術大学院大学(OIST) のプレスリリースより、同じ OIST の別の発表(2024年・浮いたグラファイトの板)の写真)

これは磁気浮上列車を持ち上げられる仕組みで、ダイヤを載せたセンチ大の物体も浮かせられるといいます。

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