・母親マウスの卵子と雌の半数体胚性幹細胞から、生存可能な赤ちゃんマウスを生み出すことに成功
・成功の鍵は、正常な発生に必要なゲノムインプリンティングを模倣するために、遺伝子編集を行ったこと
・父親マウス同士からの子供は誕生後生きながらえることが出来なかった
中国の研究者たちが、母親の卵子と別のメス個体の幹細胞を使って、赤ちゃんマウスを作ることに成功しました。生まれた赤ちゃんは健康に育っているようです。一方、父親同士からの赤ちゃんの作成も試みられましたが、出てきた赤ちゃんはすぐに死んでしまったとのこと。研究は10月11日付の“Cell Stem Cell”で発表されています。
先行研究についての説明を追記して再送しております。
https://www.cell.com/cell-stem-cell/fulltext/S1934-5909(18)30441-7
この研究が解明しようとしているのは、「なぜ私たちが性を持つのか」ということです。ほ乳類は性を持ち、母親からの卵子と父親からの精子によって子供が生まれます。しかし魚や爬虫類、両生類や鳥類などのほ乳類以外では、雌だけで子供を産むことができます。この仕組を単為生殖といいます。研究者は、同性カップルのマウスから赤ちゃんを作るのに必要なルールの解明を目標としています。
同様の研究例としては、2004年に東京農業大学によって行われたマウス“Kaguya”の実験が有名です。Kaguyaは、母親マウスの卵子と、遺伝子ノックアウトされた雌マウスの未成熟卵の融合から生まれましたが、460回の試みたうち、成功例はたったの1匹でした。一方今回の研究では、卵子と幹細胞の組み合わせと、遺伝子編集を用いた結果、大幅に成功率を上昇させることに成功したのです。
今回の母親同士の単為生殖では、まず片方の母親から卵子を取り出しました。そして、もう片方の母親から特別な細胞である、半数体胚性幹細胞を取り出します。これら2つの細胞は、どちらも通常の個体の持つ遺伝子ペアのうち片方だけを持ちます。したがって、2つの細胞を融合させることで完全な遺伝子セットを持った細胞になるのですが、まだそれだけでは十分ではありません。
遺伝子の中には、片親性で発現するものがあります。この片親性を生み出す仕組みをゲノムインプリンティングと呼びます。ゲノムインプリンティングがうまくいかないと、子供は生まれてこないか、あるいは生まれても障害を持った子供になっていしまいます。具体的には、メチル化による遺伝子修飾によって、遺伝子の発現が抑えられるというメカニズムです。
研究で母親から取り出した胚性幹細胞には、父親からのインプリンティングが施されていません。そこで、人工的にゲノムインプリンティングと同じ状態を作るために、遺伝子編集で対象となる遺伝子そのものを3つ除去。その結果、メス同士の子供の出産に成功することができたのです。
もしこの技術が人間にも適用できるようになれば、同性カップルが自分たちの子供を持つことができるようになります。しかし、今の段階では、技術的な問題はもちろん、倫理的な問題や、生まれてきた子供の異常の有無など、解決しなければいけない問題が多くあります。とはいえ、もし同性生殖が可能になった暁には、性の区別という概念が今とは違ったものになるかもしれませんね。
via: BBC/ translated & text by SENPAI