biology

がん治療に革命?! がん細胞が自殺する「キルコード」が解明される

2018.10.30 Tuesday

Point
・すべての細胞には、がん化した際にRNAとして現れることで細胞死へと導く「キルコード」が存在する
・最新の研究が、がんに対して最も毒性の強いキルコード(ヌクレオチドの配列)を読み解くことに成功した
・これにより、がん細胞を死滅させるための人工マイクロRNAをデザインすることが可能となったが、実用化にはまだ時間が必要

すべての細胞には、突然変異によって癌化した際に自滅できるように「キルコード」が仕組まれており、細胞の内側に存在する「ボディガード」が変異を感じるとすぐにキルコードが打ち込まれ、その細胞の息の根が止められることになります。

今回アメリカのノースウェスタン大学の最新の研究によって、そのキルコードを読み解くことに成功しました。すなわち、これにより人工的にキルコードを細胞に与えて、がん細胞を死滅させられるようになるかもしれないのです。

6mer seed toxicity in tumor suppressive microRNAs

https://www.nature.com/articles/s41467-018-06526-1

キルコードが組み込まれているのはRNAの中です。RNAとは遺伝子発現や抑制に働く分子で、様々な種類のものが知られています。いちばん有名なRNAはメッセンジャーRNA(mRNA)で、遺伝子発現の際にタンパク質のアミノ酸配列の鋳型となる比較的大きなRNAです。そして最近になって知られるようになったのがマイクロRNA(miRNA)で、遺伝子発現の量を調節することで様々な生体機能を促します。

キルコードは大きなRNAにも小さなRNAにも含まれていて、科学者たちの見積もりでは8億年以上も前に、体を癌から保護するために発達した仕組みであると考えられています。また、化学療法の薬がきっかけとなって働き、毒性のあるRNA(キルコードを含むRNA)になることも知られています。

癌はキルコードを含むRNAに抗うことはできません。そのため、そのキルコードが人工的に複製できるようになれば、がん治療に革命が起こる可能性があります。つらい化学療法を経ずとも直接小さなキルコードを含んだRNAを与えるだけで治療が行えるようになるかもしれません。化学療法には多くの副作用があります。ゲノムを攻撃して変化させるため、場合によっては別の癌が発症することもあるのです。

研究を率いたマーカス・ピーター教授は、2017年に特定のRNA分子ががん細胞を死滅させることを発見していました。その様子はまるで、がん細胞が「銃」や「飛び降り」などあらゆる手段を使って「自殺」しているかのようであったと語っています。

しかし、当時はその自殺のメカニズムについては分かっていませんでした。分かっていたのはRNA内における “6mers”と呼ばれる6つのヌクレオチドの配列が含まれるRNAが毒性のあるRNAとなり、がん細胞を死滅させられるということでした。

最新の研究では、“6mers” における4,096の組み合わせをすべて調査することで、最も癌に対して毒性の強い組み合わせが明らかになりました。また、がんに関わっている遺伝子のmRNAが断片化することで、毒性を持つmicroRNAのように振る舞うこともわかりました。さらに、こういった振る舞いをするmRNAはゲノム全体の3%に及ぶことも示されています。ピーター教授はこの成果により、がん細胞を死滅させるための強力な人工miRNAをデザインすることができると語っています。

次のステップは、この研究を実際の治療に活用することです。ピーター教授は研究を続けていますが、実用化にはまだ時間がかかるであろうことを強調しています。

https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/3020

via: eurekalert / translated & text by なかしー

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