音楽に合わせて体を動かす「踊り」「ダンス」は、場所や時代を問わず、世界中に見られます。一見すると取るに足らないこの行動、実は私たち人間にとっては必要不可欠なのです。
私たちがダンスを通して「まとまった」ときに発生する、電気のような感情。海外メディア“Aeon”の動画が、その感情によって人々が一体化するシステムを解説しています。
世界には、国の数だけ、もしくはそれ以上に様々な文化があります。そして文化の数だけ、またダンスもあるのです。
例えば、ポーランドのボヘミア地方では、「ポーランドの娘」という意味をもつ「ポルカ」が有名です。19世紀に民族舞踊として始まったポルカは、弾むようなテンポとステップが特徴的。
また、日本で「踊りの国」といえばすぐに思いつくインドも、もちろんダンス大国です。映画には必ずダンスシーンが盛り込まれますね。「バーラタ・ナーティヤム」という踊りは、紀元前1000年頃にはすでに始まっており、インドでも最古の歴史も持っています。
南米のアルゼンチンなら「タンゴ」です。男女ペアになって、男性が即興でリードし、女性がそれに答えるという会話のように展開する踊りです。ですから、パートナーとなる人の数だけ、違ったダンスになるという奥深いものなのです。
文化により踊り方は異なりますが、根本のところはどれも同じ。時代や場所が移り変わろうと、私たちは音楽に合わせて体を動かすということに変わりはないのです。
さて、それではなぜダンスは、私たちにとって欠かせないものとなったのでしょうか。その答えは、人間に根本的に根ざしている集団性にあります。
それぞれの文化には、独自の言語や習慣があります。しかし同じ文化でも、意見や主張が異なる人への、嫉妬や争い、仲間割れなどは頻繁に起こります。
その中で集団としての社会を分裂させないためには、各メンバーを密につなげることのできる何かが必要なのです。
フランスの社会学者だったエミール・デュルケムは、集団をひとつにまとめる根本には、彼の用語で言う「集合的沸騰(collective effervescence)」という要因があると言います。「集合的沸騰」は、集団に属するメンバーが互いに接近してまとまりを持つときに、一瞬の、電気のような興奮状態を生み出すことを言います。
また、オックスフォード大学の進化生物学者であり、自身もダンサーであるブロンウィン・タール氏は、人間が体を動かそうとする生来的傾向に対する進化的・神経学的な根拠について研究しています。タール氏によると、私たちは生まれつき、他の人々と体の動きをシンクロさせようとする傾向を持っているとのこと。
そして他人の動きを観察するとき、私たちの脳は活発化します。というのも、自分がそれと同じ動きをするとどうなるかをシミュレーションしているからです。ダンサーの動きを見て、体が少し動き出すのもこのシミュレーション効果によります。
このような相手の動きの模倣は、神経回路を活発にさせます。そして集団のメンバー各々がお互いの動きをシンクロさせようとするとき、同じ神経回路が活性化し、集団の間に、ある種の電気的興奮が生じるのです。
また、脳の活性化によって「エンドルフィン」や「ドーパミン」などの化学物質を起こすには、音楽が必要不可欠です。音楽のリズムに乗ることで脳の動きは活発になり、「幸せホルモン」としても知られている「オキシトシン」を生み出します。そして驚くことに、「オキシトシン」が発生している最中、私たちは痛みに対して鈍感になるのです。
そして、個人のリズムが集団にまで膨れ上がると、デュルケムの言うような「集合的沸騰」が起こり、グループ内に属するメンバー相互の関係が緊密になるのです。
ダンスのような刺激の強い体験を共有することは、私たち人間の社会的まとまりの結びつきをより強固なものにします。
個人主義によって人々の絆が薄れ行く現代。再び人々の心を結びつける鍵の一つは、ダンスなのかもしれません。
via: laughingsquid / translated & text by くらのすけ