■室内用の鉢植えのポトスにウサギの遺伝子を組み込むことで、空気中に含まれる揮発性有機化合物を分解し、無害の副産物に変える植物が誕生
■動物の肝臓でアルコールが分解されるプロセスを活用し、2E1酵素の遺伝子のコピーをポトスに注入
■この技術は、多くのエネルギーを必要とせず、環境に優しい
超ハイブリッドな空気清浄機の登場です。
室内用の鉢植え植物にウサギの遺伝子を組み込むことで、空気中に含まれる有害物質をろ過する植物が生まれました。この新技術は、動物の肝臓でアルコールが分解されるプロセスを活用しており、住環境をより安全なものに変えてくれるでしょう。
住宅などの建物の中には、ベンゼンやクロロホルムなどの微細な汚染物質「揮発性有機化合物」が蓄積しています。揮発性有機化合物は、人間の日々の活動やタバコや家具などから発生します。これらが空気汚染を引き起こしているという事実は見落とされがちですが、実はガンの要因になるほど人体に有害なのです。
ワシントン大学のスチュワート・ストランド氏らは、遺伝子操作技術と、哺乳動物が自ら生み出す「2E1酵素」が有害物質を除去する作用を利用して、これらの汚染物質を除去する物質を開発しました。この物質は、ベンゼンやクロロホルムを分解して、無害の副産物に変える作用があります。
https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.est.8b04811
わずか6日間で汚染物質が検出不可に!2E1酵素の驚くべき効果
2E1酵素は、ヒトを含むすべての哺乳動物に共通して存在しますが、肝臓がアルコールを分解する際にのみ生産されます。そこでストランド氏らは、この酵素が動物の体内に限らず、空気中の汚染物質からも私たちの体を守る作用を、植物に掛け合わせることで実現できないかと考えました。
研究チームはまず、ウサギの2E1酵素と同じコードを持つ遺伝子のコピーを作成し、家庭用の鉢植え植物としてポピュラーなポトスに注入。するとあっという間に、ポトスの各細胞が2E1酵素のミニチュア工場に早変わり。「緑の肝臓」が誕生したのです。
次に、この装置の「生きる空気清浄機」としてどの程度機能するかを確かめるため、彼らはベンゼンとクロロホルムで満たしたガラス菅の中に装置を入れてみました。その結果、わずか6日間でクロロホルムは事実上検出不可能な値まで下がり、ベンゼンは8日間で4分の1に減少。驚くべき効果です。
比較対象として、遺伝子操作を加えていないポトスでも同じ実験を行ってみたところ、汚染物質の量には一切変化が見られませんでした。
ストランド氏らは、この装置の家庭での実用化に向け、タバコの煙や床材などに含まれるホルムアルデヒドなどの別の有害物質に対する効果を調査しているところです。また、別の遺伝子を掛け合わせたらどんな効果が現れるかも調べています。
これらの汚染物質は安定しているため、単に除去しようとすると高エネルギーの処理が必要になるそうです。それに比べて、汚染物質の分子を分解する酵素を一つの植物にまとめて入れてしまうこの技術は、省エネで環境に優しいのです。
また、「遺伝子操作を加えたポトスが拡散して、生態系に変化をもたらすのでは?」という懸念の声もありますが、ポトスは温暖な気候では花が咲かないため、遺伝子操作を加えたポトスの花粉が野生のポトスに受粉する危険性は低いとのこと。良いことばかりです。
ただでさえ、私たち動物が生きていくために不可欠な酸素を生み出してくれる植物。それに加えて、空気までも綺麗にしてくれるなんて、ありがたい限りですね。
referenced: independent, bgr/ written by まりえってぃ / edited by Nazology staff