宇宙に1年間滞在した宇宙飛行士は、身体の外見だけでなく遺伝子も変えてしまうようです。
米航空宇宙局(NASA)は、スコット・ケリー宇宙飛行士の遺伝子のうち7%が、地球帰還後2年経った後も通常状態に戻らないと発表しました。
この調査では、ケリー氏の身体が国際宇宙ステーションで一年間過ごすことでどう身体が変化するのか、地上に残った双子の兄弟マーク氏と比較。かつて一致していた2人の遺伝子が、宇宙滞在後に一致しなくなっていたことがわかりました。
スコット氏「記事で知った」
スコット氏の遺伝子のうち7%が変質したということは、少なくとも5つの生物学的経路や機能に関わる遺伝子が、長期的に変化したことです。
研究チームは宇宙滞在によって起きる身体的変化を調べるため、スコット氏の代謝産物(生命を維持するのに必要)、サイトカイン(免疫細胞から分泌)、そしてタンパク質(各細胞の実行部隊)を、宇宙滞在前、滞在中、滞在後に計測しました。
その結果、宇宙滞在は低酸素ストレス、炎症の増加、劇的な栄養分の劇的な変化をもたらし、遺伝子発現に影響を及ぼすことがわかりました。
実はスコット氏、この事実をニュース記事で知ったようです。
What? My DNA changed by 7%! Who knew? I just learned about it in this article. This could be good news! I no longer have to call @ShuttleCDRKelly my identical twin brother anymore. https://t.co/6idMFtu7l5
— Scott Kelly (@StationCDRKelly) 2018年3月10日
スコット氏はTwitter上で、「え? 僕のDNA、7%も変わっちゃったの?驚いた」とつぶやいています。事前に連絡が行かなかった理由は、すでに引退した宇宙飛行士であることなど様々な憶測を呼んでいますが、どちらにせよ自分の遺伝子レベルの変化までニュースで知るという状況は中々一般人には体験できないものでしょう。
戻らなかった7%の「宇宙遺伝子」
スコット氏の遺伝子は地球へ帰還後、93%はもとに戻りましたが、数百の変化してしまった「宇宙遺伝子」は戻らないままでした。これらの変異のうちいくつかは、宇宙旅行のストレスによって起こったものと考えられます。
スコット氏の細胞における重要な変化の一つは、酸欠や高い二酸化炭素濃度によって起こる低酸素症、つまり組織の酸素化量の減少でした。また「細胞の発電所」であるミトコンドリアにも損傷がある可能性があります。
老化の程度を表す、染色体末端部位のテロメアにも変化が見られました。宇宙滞在中はテロメアの長さの平均値が大幅に伸びましたが、地球に戻ると約48時間以内に、出発前に近い値に戻ったとのことです。
研究チームは、そうしたテロメアの変化やDNAの損傷と修復は、放射線とカロリー制限によって引き起こされたと推測しています。
ほかにもスコット氏のコラーゲン、血液凝固や骨形成にも変化を認めており、これは体液分布の変化や無重力が原因と考えられています。また、免疫活性の過剰も見られ、宇宙という極端な環境の変化がその原因だと考えられます。
NASAは今回の研究を受け、腸内細菌や骨、免疫システムが宇宙滞在でどのように影響を受けうるのかを調査しています。
NASAの火星への有人探査は、今後3倍の期間である3年を計画しています。ケリー氏の今回の宇宙探査は、この計画への科学的な足がかりとなりました。しかし期間が伸びる分、長期の放射線や宇宙飛行にどう適応するのかを調べる研究が必要とされています。
via: CNN/ translated & text by Nazology staff