
■身体の痛みだけでなく、心の不安や苦痛もほとんど感じない女性の遺伝子を調査
■脳内麻薬物質「アナンタミド」を分解するFAAH遺伝子の働きが抑制されているだけでなく、機能も損失
■痛みが持つ「警報装置」としての働きが過度になることで生じる慢性疼痛などを解決するヒントが得られた
擦りむいた膝がズキズキ、腹痛でお腹がシクシク…。
世の中には、こうした怪我や病気による身体の痛みを感じない人々がいます。スコットランド在住の71歳の女性ジョー・キャメロンさんもその1人。彼女は身体の痛みだけでなく、なんと心の不安や苦痛もほとんど感じることがないそう。さらに60代に入るまで自分が普通の人と違うことに気づかなかったといいます。
「痛みを感じないなんて、うらやましいな〜」と思ったそこのあなた。とんでもありません。実は、痛みは生きていく上でとても重要なのです。
痛みを感じられなければ、やけどをしても、足首をひねっても、それに気づくことができません。雑誌「British Journal of Anaesthesia」に掲載された論文によると、キャメロンさんの特異体質には2つの遺伝子変異が関連しているそうです。
https://bjanaesthesia.org/article/S0007-0912(19)30138-2/fulltext
腕が焦げても、出産しても痛くない… 特に疑問を持たずに長年が経過
調査のきっかけは、キャメロンさんが5年前に受けた手の手術でした。術後の痛みを感じない様子の彼女に驚いた医者が、専門家による遺伝子分析を受けるよう推めたのです。
「思い返してみれば、私は痛み止めを必要だと考えたことなんてありませんでした。でも、痛み止めが必要でなければ、それがなぜかなんて考えないでしょう。私が疑問に思わないことを誰かが指摘してくれるまで、ありのままの自分でいるだけ。私は、自分の何かが人と違うことに気付いていないハッピーな人間だったのよ」と語るキャメロンさん。

これまで、コンロの上で自分の腕が焦げていることに、肉が焼ける臭いがしてくるまで気づかなかったことも。また、出産の際もまったく痛みを感じず、「とても楽しかった」と振り返ります。